飛来・落下事故
飛来・落下事故とは
飛来・落下事故の一例としては、工事作業中に重機が飛んでいってしまう、搬送中の重量物を誤って落としてしまう、というものが挙げられます。
飛来・落下事故は、重量物が被害者にぶつかってしまうことで、重篤化・重症化することが少なくありません。
会社・元請会社に対する損害賠償請求
重度の後遺障害を負ったり、ときには亡くなってしまったりすることもある飛来・落下事故では、被害者に対する損害賠償金は、相当高額になることも少なくありません(数千万円超というケースもあります)。
このような飛来・落下事故が発生した場合には、被害者の雇用先である会社や、元請会社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求や(民法415条)、不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことができるケースがあります(民法709条以下)。
もっとも、実際には被害者は会社や元請会社に対し、適切な損害賠償請求ができるケースであるにもかかわらず、労災保険給付を受け取るのみで、それ以上の損害賠償請求を行わないままとなってしまい、適切な損害賠償金を受け取ることができていないことも少なくありません。
労災被害に遭われた方は、会社や元請会社に対して損害賠償請求を行うことができるかどうか、また労災給付を受け取っただけで終了していないかどうかを確認していただく必要があります。
適切な損害賠償請求のために必要な3つのポイント
1 安全配慮義務違反の有無
飛来・落下事故の類型として、厚生労働省が公表する「職場のあんぜんサイト」では、以下のような事例が紹介されています。
- 鋼材の吊上げ作業において、吊上げた鋼材のバランスが悪く、マグネットから外れて落ちそうになった
【対策】吊り荷の重量とマグネットの能力を確認して操作を行うこと。またマグネットは吊り荷の中心につけ、バランスを確認してから吊上げること。 - ボール盤で加工中、「キリ粉」が飛散し眼に入りそうになる
【対策】卓上ボール盤の作業では、どんなに短時間の作業であっても必ず保護めがねを使用する。 - 2階足場から1階通路への工具類の落下
【対策】このような場合はまず上下作業は禁止するが、時間的余裕のない場合は、時間帯をずらすか、ネットを張る等の落下防止措置を行い、作業手順書を整備して周知させてから行う。 - 二階から工具を落とし、下の作業者に当たりそうになった
【対策】二階吹き抜け手すりの近くで、暖房機を組立作業中に、手すりの隙間から電動ドライバーを落とし、下の作業者に当たりそうになった。
それぞれの事故類型によって、講じるべき対策は異なりますが、これらの対策を講じていれば、未然に飛来・落下事故の発生を防ぐことができたといえます。
仮に、上記事故類型で深刻な労働災害が発生してしまっていた場合、各事故類型別の対策を講じていたかどうかが、会社の安全配慮義務違反の有無につながるといえます。
したがって、業務上の災害が発生した場合には、それぞれの事故原因及び対策を確認し、果たして会社側が十分に安全配慮義務を尽くしたということができるかどうかを検討する必要があります。
2 損害額の算定
重度の後遺障害を負ったり、ときには亡くなってしまったりすることもある飛来・落下事故の場合には、被害者の損害額を適切に評価する必要があります。
労働災害における主な損害項目を整理すれば、以下のとおりです。
3 過失割合
会社に対する安全配慮義務違反が認められ、かつ被害者の損害額を算定することができたとしても、過失割合が問題となるケースがあります。
過失割合とは、労災事故が起きた原因が会社側の安全配慮義務違反だけにあるわけではなく、被害者(労働者)側にも落ち度があると認められる場合に、損害額を一定程度減額するという制度になります。
労働災害における損害賠償請求が問題となるケースでは、会社側から、被害者(労働者)側にも落ち度があったとして、過失割合が争われるケースは少なくありません。
このように、過失割合が争われる場合には、被害者(労働者)側でも、労災事故の状況や、事前の会社側の対策(研修や教育制度、マニュアルや労災事故防止のための機材の手配等)が十分に講じられていたかどうかを主張・立証する必要があります。