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労災発生時の初動対応

はじめに

「仕事中に同僚が大ケガをしてしまった…」「重篤な事故が発生してしまった」――職場で労災事故が起きたとき、人命や健康を守るためにどれだけ迅速かつ適切に行動できるかが大切です。初動が遅れれば、被災者の容体が悪化するだけでなく、後々の労災手続きや会社の責任問題にも大きな影響を与えます。
本稿では、労災事故が起きたときに何をすべきか、会社や周囲の人が取るべき初動対応のポイントをまとめました。救急対応から社内報告、労災保険手続き、労働基準監督署への連絡に至るまでの注意点に関する参考としてご活用ください。

Q&A

大けがや意識不明の場合、まずはどうすればいい?

119番に通報し、救急車を手配します。周りの安全確認や応急処置も重要ですが、命にかかわる状態であれば躊躇せず救急対応を最優先に行うべきです。

労災事故があったら労働基準監督署に連絡しなければならないのですか?

はい。死亡事故や重篤なケガ(入院4日以上など)の場合、法律で定められた様式(死傷病報告)を添えて24時間以内に労働基準監督署へ報告する義務があります。軽傷の場合でも、会社は月ごとに死傷病報告を提出する場合があります。

被災者が自力で病院に行った場合はどうなる?

緊急時は自家用車やタクシーで病院に行くこともあるでしょう。後から労災扱いに切り替えることは可能です。ただし、医療機関には「労災である」旨を早めに伝え、必要書類を提出しましょう。

周囲の証言や事故状況を残す必要は?

はい。労災認定や後日の原因調査・再発防止策のためにも、事故の日時や場所、状況、目撃者の情報などを記録しておくのが重要です。スマホの写真撮影やメモなどでも構いません。

会社が「大事にしたくないから内緒にして」と言ってきたら?

労災事故を隠蔽するのは法律違反です。被災者は適切な治療・補償を受ける権利があります。会社が拒否しても、本人が直接労働基準監督署へ申請可能です。隠蔽に加担すれば自分まで処分を受ける可能性があります。

解説

応急処置と救急対応の優先

人命第一

労災事故現場では、何よりも被災者の安全確保と応急処置が優先されます。大きく出血している、意識がない、呼吸していないといった場合は救急車の要請が最優先されます。

  • 可能な範囲で応急手当
    止血、AEDの使用、人工呼吸など。
  • 周囲の協力
    他の従業員に安全確保や救急車への誘導を依頼。
二次災害防止

事故が起きた場所が危険なままだと、救助に入った人まで巻き込まれるリスクがあります。電源を切る、機械を停止する、足場を固定するなど、二次被害を防ぐ措置を速やかに取りましょう。

社内報告と指揮命令系統

迅速な上司報告

救急対応と並行して、現場責任者や管理部門(総務・人事)に事故の発生を迅速に報告します。事故の大きさによっては経営陣にも早めに伝え、対応を協議する必要があります。

事故対応チームの編成

重大事故の場合、社内の複数部署(安全担当・総務・人事・法務など)でチームを作り、分担して対応にあたるのが理想です。

  • 社内外への連絡(家族、監督署、取引先など)
  • 事故原因の調査
  • 再発防止策の検討

労働基準監督署への報告義務

死亡・重篤事故の場合

死亡または4日以上の休業を要するケガが発生した場合、会社は「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出する義務があります。提出を怠ると行政処分や罰則対象になります。

軽傷事故でも報告が必要な場合

軽傷事故の場合でも、会社は一定期間ごとに死傷病報告をまとめて監督署に提出するルールがあります。会社規模や業種によって様式が異なるので、該当するか確認が必要です。

労災保険手続き

治療費の負担

労災事故であれば、医療費は原則として労災保険が全額負担します。労災指定病院に行けば、様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)を提出することで、被災者の自己負担ゼロで治療が受けられる仕組みです。

会社が非協力的でも被災者が申請可能

「うちでは労災手続きをしたくない」「健康保険で処理しろ」と言われても、被災者本人が労働基準監督署へ直接申請でき、認定されれば労災保険の給付を受けられます。

  • 会社が様式へ記名押印しなくても手続きできる(その後、監督署が会社に照会することになるが、被災者の権利は守られる)。

事故原因調査と再発防止

現場検証

安全管理者や上司、場合によっては労働基準監督署の担当官が現場を調査し、事故が起きた原因を究明します。

  • 作業手順に問題がなかったか
  • 機械や設備の故障・不備はなかったか
  • 保護具や安全装置は適切に使用されていたか
改善策の実施

調査結果に基づき、職場の安全対策を強化します。

  • 手順書の改訂
  • 危険場所への立ち入り制限
  • 機械の安全装置の追加
  • 従業員教育の再徹底

これらを適切に行わないと、同様の事故が繰り返されるリスクが高まり、会社の責任がさらに重くなります。

弁護士に相談するメリット

  1. 法律に基づいた迅速なアドバイス
    大きな労災事故が発生すると、会社や被災者は何をどこに連絡し、どの書類を整え、どう進めるべきか混乱しがちです。弁護士なら労働基準法・労働安全衛生法・労災保険法などを踏まえ、的確な手順を示してくれます。
  2. 会社とのトラブル回避
    会社が事故を過小評価して報告を避けようとする場合、弁護士が仲介に入ることで適切な手続きを促せます。被災者がスムーズに労災給付を受けるためにも心強い味方です。
  3. 証拠保全・事故原因の追及
    労災事故の責任をめぐり、後々紛争に発展することもあります。弁護士が早期に現場写真や作業マニュアル、目撃証言などを確保し、会社の安全配慮義務違反を追及する材料を整理することが可能です。
  4. 民事賠償請求や示談交渉
    労災保険だけではまかなえない損害(慰謝料・逸失利益など)が大きい場合、弁護士を通じて会社に損害賠償を求めることができます。示談で解決できない場合は裁判も視野に入ります。
  5. 精神的負担の軽減
    事故直後は被災者と家族が動揺し、正しい判断が難しい局面です。弁護士に相談すれば法律面の手続きを任せられ、治療や心のケアに専念しやすくなります。

まとめ

労災が発生したときの初動対応は、被災者の命・健康を守るだけでなく、後々の労災手続きや会社の責任に大きく影響します。

  1. 最優先は救命・救急。二次災害を防ぎつつ、緊急の場合は119番通報をためらわない。
  2. 社内報告と指揮命令系統の確認。管理部署や上司に即時連絡し、必要があれば経営陣にも報告。
  3. 労働基準監督署への報告義務。死亡・重傷(4日以上休業)には災害発生後遅滞なく提出する必要があります。
  4. 労災保険手続きの準備。様式第5号など必要書類を整え、医療機関に提出する。会社が非協力でも諦めず、被災者自身が申請できる。
  5. 事故原因の究明と再発防止。現場調査を行い、必要な安全対策や作業手順の改善を実施。

万が一、「会社が事故を隠蔽しようとしている」「手続きを進めてくれない」「責任を押し付けてきた」など不当な扱いを受けた際は、専門家へ相談し、正しい手続きを踏むことをおすすめします。適切な初動対応が、その後の補償や安全改善に直結します。

  • 本記事の内容は2024年12月時点の法令・制度をもとに作成しています。各職場の状況や事故の種類によって対応が異なることもあるため、最新情報や専門家の見解をあわせてご確認ください。

解説動画のご紹介

労働災害でお悩みの方に向けて、労働災害に関して解説した動画をYoutubeチャンネルで公開しています。
「事故直後に何をすべきか」など具体的なマニュアルを解説している動画もありますので、ぜひご覧いただき、チャンネル登録もあわせてご検討ください。

【労働災害の動画のプレイリストはこちら】

この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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