会社の倒産後や退職後でも労災保険の給付は受けられる?
はじめに
労働災害による療養が長引く中で、会社の経営状況が悪化しているという噂を耳にしたり、あるいは職場での人間関係などから、会社を辞めることを考えたり…。被災された方の中には、ご自身の怪我や病気の治療だけでなく、会社との関係性について大きな不安を抱えている方も少なくありません。
特に深刻なのは、「もし会社が倒産してしまったら、治療費や休業補償は打ち切られてしまうのではないか?」「会社を辞めたら、もう労災保険は使えなくなるのではないか?」というお金に直結する不安です。
しかし、もしあなたが今、そのような心配をしているのなら、どうぞご安心ください。この記事でお伝えしたい重要な結論は、「会社の倒産後であっても、ご自身で退職した後であっても、労災保険の給付は、治癒(症状固定)するまで問題なく受け続けることができる」ということです。
なぜなら、労災保険の受給権は、会社に付随するものではなく、あなた自身の権利だからです。その理由と具体的なケースについて解説していきます。
原則:労災保険の受給権は「労働者個人の権利」です
まず、根本的な原則をご理解ください。労災保険の給付金は、会社から支払われるものではありません。保険料を納めているのは会社ですが、給付を行うのは国(政府)です。そして、その給付は、国から被災した労働者個人に対して、直接支払われます。
この点が、会社が独自に設けている福利厚生(お見舞金など)とは決定的に違う点です。
したがって、あなたが労災保険の給付を受ける権利は、
- 保険料を納めていた会社が、今も存在しているかどうか(倒産していないか)
- あなたが、その会社に今も在籍しているかどうか(退職していないか)
といった、会社の存続状況や、あなたと会社との雇用関係の有無には、一切左右されません。
一度発生した労災保険の受給権は、労働者災害補償保険法によって保障された、あなた固有の権利なのです。
ケース別解説:こんなときでも労災保険は受け続けられる
ケース1:労災で療養中に「自己都合で退職」した場合
療養が長引く中で、「会社に居づらい」「心機一転、別の環境で再出発したい」といった理由で、ご自身の意思で会社を退職することを選択するケースは珍しくありません。
このような場合でも、退職を理由に労災保険給付が打ち切られることは絶対にありません。
在職中に発生した業務災害・通勤災害である限り、治療が終了する(治癒または症状固定と判断される)まで、治療費である療養(補償)給付や、生活費である休業(補償)給付などを、退職後も継続して受け取ることができます。
退職後の手続きのポイント
労災の申請書には、会社に災害の事実を証明してもらう「事業主証明」の欄があります。退職後であっても、災害は在職中に起きたものですから、基本的には元の勤務先に証明を依頼します。もし会社が証明を拒否するなど非協力的な場合でも、労働基準監督署にその旨を説明すれば、証明なしで申請は受理されますのでご安心ください。
ケース2:労災で療養中に「解雇」された場合
まず知っておいていただきたいのは、労働基準法第19条により、労働者が業務災害で休業している期間と、職場復帰後の30日間は、原則としてその労働者を解雇することは法律で禁止されている(解雇制限)ということです。この規定に反する解雇は「不当解雇」として、その無効を争うことができます。(※通勤災害にはこの解雇制限の適用はありません)
ただし、例外的に解雇が認められるケース(療養開始後3年を経過しても治癒せず、会社が打切補償を支払った場合など)もあります。
重要なのは、仮に解雇が有効であったとしても、自己都合退職の場合と全く同じように、解雇を理由に労災保険給付が打ち切られることはない、という点です。
ケース3:会社が「倒産」してしまった場合
被災された方にとって、最も不安に感じるのがこのケースかもしれません。しかし、結論は同じです。会社が倒産(破産など)によって消滅してしまったとしても、あなたの労災保険給付は、国から直接、問題なく支払われ続けます。
倒産後の手続きのポイント
会社が倒産すると、事業主証明をもらうことが物理的に不可能になります。その場合は、労働基準監督署に、会社が倒産した事実を証明する書類(破産手続開始決定通知書の写しなど)を提出するか、口頭で事情を説明すれば、事業主証明なしで手続きを進めることができます。どこに連絡すれば良いか分からなくなった場合は、まずは管轄の労働基準監督署に電話で相談しましょう。
ケース4:労災申請を「する前」に退職・倒産した場合
在職中に起きた労災事故について、申請をしないまま退職してしまった、あるいは会社が倒産してしまった、というケースでも諦める必要はありません。
災害発生が在職中であったことを証明できれば、退職後・倒産後であっても、新たに労災を申請することが可能です。ただし、給付請求権には時効(治療費や休業補償は2年、後遺障害の補償は5年)があるため、注意が必要です。事故の状況を知る同僚の証言や、当時の診断書など、証拠を確保しておくことが重要になります。
まとめ
会社の状況に惑わされず、安心して治療に専念してください
ここまで見てきたように、労災保険の受給権は、会社の都合によって揺らぐことのない、労働者自身の権利です。
- 退職しても、労災保険は打ち切られない。
- 会社が倒産しても、労災保険は打ち切られない。
- 労災保険は、会社ではなく、国から支払われる。
「会社を辞めたら、もう面倒を見てもらえない」「会社がなくなったら、すべて終わりだ」といった不安は、どうか抱え込まないでください。あなたは、ご自身の体の回復だけに集中する権利があります。
ただし、退職や倒産が絡むと、会社とのやり取りがスムーズにいかなくなったり、手続きが煩雑になったりすることは事実です。そのような状況で一人で悩んでいると、時間が経つばかりで、大切な権利である時効が迫ってくる可能性もあります。
もし、あなたがこのような複雑な状況でお困りでしたら、できるだけ早く専門家である弁護士にご相談ください。私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所は、会社との間に立って必要な手続きを進め、あなたが安心して治療に専念し、正当な給付を受け続けられるようサポートいたします。
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