労災申請に時効はある?給付の種類ごとに異なる請求期限まとめ
はじめに
労働災害による突然の事故。その直後は、怪我の痛みや今後の治療のことで頭が一杯になり、労災申請のことまで、なかなか考えが及ばないかもしれません。治療が一段落し、数ヶ月、あるいは1年以上が経過してから、「そういえば、労災の申請をしていなかった…」と気づくケースも少なくありません。
そのとき、ふとよぎるのが「事故からだいぶ時間が経ってしまったけれど、今からでも申請できるのだろうか?」という不安です。
この記事では、その疑問に明確にお答えします。答えは、「はい、労災保険の請求には期限があり、それを過ぎると権利が消滅します」です。これを法律の世界では「時効(消滅時効)」と呼びます。
労災保険の給付を受ける権利は、永久に保障されるわけではありません。あなたの正当な権利を失ってしまわないために、給付の種類ごとに異なる複雑な時効期間を整理し、今すぐ行動することの重要性をお伝えします。
「時効」とは? なぜ請求に期限があるのか
時効(消滅時効)とは、法律で定められた権利(この場合は労災給付を請求する権利)が、一定の期間、行使されないままでいると、その権利自体が消滅してしまう、という制度です。
「なぜそんな制度があるのか?」と疑問に思うかもしれません。これは、あまりに長い時間が経過すると、事故の証拠がなくなったり、関係者の記憶が曖昧になったりして、事実関係を正しく判断することが難しくなります。そのような不安定な状態をなくし、法律関係を早期に安定させるために、時効という期限が設けられているのです。
【給付の種類別】労災保険の時効期間一覧表
労災保険の時効は、請求する給付の種類によって、期間とカウントが始まるタイミング(起算点)が異なります。非常に重要な部分ですので、しっかりと確認してください。
給付の種類 | 時効期間 | いつからカウントが始まるか(時効の起算点) |
【時効 2年】 | ||
療養(補償)給付 | 2年 | 療養の費用を支払った日(立て替えた日)の翌日 |
休業(補償)給付 | 2年 | 賃金を受けなかった日(休業した日)ごと、その翌日 |
葬祭料(葬祭給付) | 2年 | 労働者が死亡した日の翌日 |
介護(補償)給付 | 2年 | 介護を受けた月の翌月の1日 |
【時効 5年】 |
||
障害(補償)給付 | 5年 | 傷病が治癒(症状固定)した日の翌日 |
遺族(補償)給付 | 5年 | 労働者が死亡した日の翌日 |
(参考)二次健康診断等給付 | 請求期間3ヶ月 | 一次健康診断日から3ヶ月以内 |
時効を理解するための重要ポイント
上記の表の中でも、特に注意が必要な点について、具体的に解説します。
① 休業補償の時効は「毎日」進行する!
休業(補償)給付の時効は、「休業した日ごとに、その翌日から2年」です。これは、休業補償を受け取る権利が、1日単位で発生し、そして1日単位で時効が進行していくことを意味します。
例えば、2024年4月1日から休業を開始した場合、
- 4月1日分の請求権は、2年後の2026年4月2日に時効を迎えます。
- 4月2日分の請求権は、2年後の2026年4月3日に時効を迎えます。
- 4月3日分の請求権は、2年後の2026年4月4日に時効を迎えます。
このように、休業が長引き、「数ヶ月分をまとめて請求しよう」と考えていると、古い日付の部分が時効にかかってしまい、受け取れなくなってしまう危険性があります。休業補償は、できるだけこまめに請求することが大切です。
② 障害補償の時効は「症状固定日」がカギ
後遺障害に対する障害(補償)給付の時効は「5年」と比較的長いですが、注意すべきは「いつからカウントが始まるか」です。
時効のカウントが始まる「症状固定日」とは、治療を続けてもこれ以上医学的な改善が見込めないと、医師が判断した日のことです。つまり、治療を続けている間は、障害(補償)給付の時効は進行しません。
この症状固定日がいつになるのかは、労災認定において非常に重要なポイントとなります。
時効が迫っている!または過ぎてしまったら?
時効の完成をストップさせる「請求」
時効の完成が目前に迫っている場合でも、諦めるのはまだ早いです。
労災保険給付の請求書を、管轄の労働基準監督署に提出し、受理されれば、その時点で時効の進行は一旦ストップします(これを「時効の完成猶予」といいます)。
たとえ書類に不備があったとしても、まずは「請求する」という意思表示を形にすることが何よりも重要です。
時効が過ぎても、諦めるのはまだ早い?
万が一、時効期間を過ぎてしまった場合、原則として権利は消滅してしまいます。
しかし、労災保険の時効が成立したとしても、会社に対する損害賠償請求権が残っている可能性があります。
会社の安全配慮義務違反などが原因で発生した災害の場合、会社に対して慰謝料などを請求できますが、この権利の時効(損害及び加害者を知った時から5年など)は、労災保険の時効とは別に進行します。労災保険の時効が過ぎていても、会社への請求はまだ可能というケースは十分にあり得ます。
まとめ
権利を失わないために、行動は「今すぐ」に
労働災害に遭われたあなたにとって、労災保険の給付は、生活を守り、未来へ進むための大切な権利です。しかし、その権利には「時効」というタイムリミットがあります。
- 労災保険の請求権には、2年または5年の時効がある。
- 特に休業補償は2年と短く、日々時効が進行していくため注意が必要。
- 権利を守る最善の方法は、災害に遭ったらできるだけ早く申請手続きを始めること。
「まだ大丈夫だろう」という油断が、取り返しのつかない結果を招くことがあります。労災申請の手続きの進め方が分からない、会社が協力してくれず時間がかかっている、といったご事情があれば、時効が完成してしまう前に、一刻も早く専門家である弁護士にご相談ください。
私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所は、時効の管理も含め、あなたが正当な権利を失うことがないようサポートを提供いたします。手遅れになる前に、ぜひ一度、私たちにご連絡ください。
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