仕事中・通勤中に負傷した際の初期対応:5つの必須ステップ
はじめに
仕事中に機械に手を挟まれた、通勤途中に駅の階段から転落した…。労働災害は、ある日突然、予期せぬ形で私たちを襲います。その瞬間は、痛みや驚き、そして混乱で、頭が真っ白になってしまうのも無理はありません。
しかし、このようなパニック状態に陥りやすい時だからこそ、事故直後の初期対応が、ご自身の身体を守り、その後の治療や労災保険の補償をスムーズに進める上で、この上なく重要になります。
「何をすればいいか分からず、ただ痛みに耐えていた」
「大したことはないと思い、誰にも報告せず帰宅してしまった」
こうした対応は、残念ながら後々ご自身を不利な状況に追い込んでしまう可能性があります。
この記事では、万が一のときに、あなたやあなたの周りの人が落ち着いて行動できるよう、「労災が発生した直後に何をすべきか」を、5つの具体的なステップに分けて、時系列で分かりやすく解説します。いざという時のためのお守りとして、ぜひ最後までお読みください。
労災発生直後の対応 5ステップ
事故に遭ってしまったら、この5つのステップを順番に対応してください。
ステップ1:自身の安全確保と応急手当【最優先】
行動
まず、何よりも優先すべきは、ご自身の安全確保です。
- 二次災害の防止
事故が起きたその場が危険な場所(稼働中の機械のそば、車両が行き交う道路上、崩れやすい足場の上など)であれば、可能な限り速やかに安全な場所へ移動してください。 - 周囲に助けを求める
一人で抱え込まず、すぐに周囲にいる同僚や上司、通行人などに大声で助けを求め、事故が発生したことを知らせましょう。 - 応急手当
出血がひどい場合は、清潔な布で圧迫止血を行うなど、可能な範囲で応急手当を行います。
理由
二次災害に巻き込まれてさらに大きな怪我を負ったり、手当が遅れて症状が悪化したりするのを防ぐためです。冷静さを失いがちな時だからこそ、「まず安全な場所へ」と意識することが重要です。無理に動けない場合は、その場で助けを呼ぶことに専念してください。
ステップ2:すぐに病院へ行く(救急車を呼ぶ)
行動
次に、必ず医療機関を受診してください。
- 症状が軽いと思っても必ず受診
「これくらいなら大丈夫」と自己判断せず、必ず医師の診察を受けましょう。 - 重症の場合は迷わず救急車を呼ぶ
意識がない、大量に出血している、骨が折れているのが明らか、頭を強く打った、といった場合は、ためらわずに119番通報をしてください。
理由
これには2つの重要な理由があります。
- 適切な治療のため
むちうちのように、後から痛みやしびれが出てくる怪我もあります。早期に適切な診断・治療を受けることが、後遺障害を残さないために不可欠です。 - 災害と傷病の因果関係を証明するため
労災認定のためには、その怪我や病気が「今回の事故によって生じた」ことを証明する必要があります。事故から受診までの時間が空いてしまうと、労働基準監督署から「本当にその事故が原因ですか?私生活で別の原因があったのでは?」と因果関係を疑われ、認定が難しくなるリスクがあります。
ポイント
病院に着いたら、受付で「仕事中(または通勤中)の怪我です。労災保険を使いたいです」と明確に伝えてください。原則として健康保険証は使いません。可能であれば、その後の手続きが非常に楽になる「労災指定病院」を選ぶことをお勧めします。
ステップ3:会社に事故の発生を報告する
行動
ご自身の身体の安全が確保され、病院へ向かう目処がついたら、できるだけ速やかに会社に事故の発生を報告してください。報告する相手は、直属の上司、人事・総務部の担当者など、会社のルールで定められた窓口です。
報告すべき内容(5W1H)
- いつ(When):例「〇月〇日 午前10時頃」
- どこで(Where):例「〇〇工場 第2ラインで」
- 誰が(Who):ご自身の名前
- 何をしていたか(What):例「プレス機の金型を交換する作業をしていた」
- どのようにして(How):例「突然、機械が誤作動し、右手を挟まれた」
- どうなったか(結果):例「右手の指を骨折し、今から〇〇病院へ向かいます」
理由
会社は、労働者が被災した事実を把握し、労働基準監督署へ報告する義務があります(労働安全衛生法に基づく労働者死傷病報告)。また、あなたが後に労災申請をする際、会社の協力(事業主証明)が必要になるため、早期に事実を共有しておくことが、手続きを円滑に進める上で非常に重要です。
ポイント
口頭での報告に加え、メールなど記録に残る形で報告しておくと、後々の「言った・言わない」のトラブルを防ぐ上でより確実です。もし会社が報告を嫌がったり、「労災は使うな」といった労災隠しの兆候を見せたりした場合は、その対応自体が違法行為にあたる可能性があります。そのような場合でも労働者自身で労災申請は可能ですので、すぐに専門家へご相談ください。
ステップ4:事故の証拠を確保・記録する
行動
可能であれば、記憶や状況が鮮明なうちに、事故に関する証拠を確保しておきましょう。
- 写真撮影
スマートフォンのカメラで、事故現場の状況、原因となった機械や備品、ご自身の怪我の状態などを撮影しておきます。 - 目撃者の確保
事故の状況を見ていた同僚や第三者がいれば、その方の氏名と連絡先を聞いておき、後で協力をお願いできる状態にしておきます。 - 現物の保全
事故の原因となった物(壊れた脚立、滑った油など)が、すぐに片付けられてしまわないよう、状況を保全してもらうよう周囲にお願いします。 - メモの作成
事故発生の経緯、会社の担当者とのやり取り、医師からの説明内容などを、時系列でできるだけ詳しくメモに残しておきます。
理由
これらの客観的な証拠は、後に労働基準監督署が労災認定の調査を行う際や、万が一、会社の安全管理体制に問題があり、会社に対して損害賠償を請求する際に、あなたの主張を裏付けるための強力な武器となります。
ステップ5:労災申請の書類を準備・提出する
行動
病院での治療と並行して、労災保険給付を請求するための書類の準備を始めます。まずは治療費を請求するための書類から着手します。
- 書類の入手
会社に依頼するか、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードします。 - 提出する書類の例(治療費の場合)
- 業務災害:様式第5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」
- 通勤災害:様式第16号の3「療養給付たる療養の給付請求書」
- 提出先
必要事項を記入し、会社の証明(記名・署名)をもらった上で、治療を受けている労災指定病院の窓口に提出します。
理由
この書類を提出することで、正式に労災保険を使った治療が開始され、あなたへの治療費の請求がストップします。これが、労災申請の具体的な第一歩となります。
まとめ:最初の行動が、あなたの未来を守ります
労働災害という非日常的な出来事に直面すると、誰でも動揺し、冷静な判断が難しくなります。しかし、そんな時こそ、この5つのステップを一つずつ思い出してください。
- 安全確保と応急手当
- すぐに病院へ行く
- 会社への報告
- 証拠の確保・記録
- 申請手続きの開始
特に、「すぐに病院に行く」「会社に報告する」「証拠を確保する」という事故直後の行動は、あなたの身体と、その後の補償を受ける権利を守る上で、決定的に重要です。
もし、これらのステップのどこかでつまずいてしまった、あるいは会社の対応に少しでも疑問や不信感を抱いたという場合は、決して一人で抱え込まず、できるだけ早い段階で私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。問題がこじれる前に専門家が介入することで、あなたの負担を最小限に抑え、スムーズな解決へと導くことができます。
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