落下・転落事故
墜落・転落事故とは
墜落・転落事故は、労働災害事故の中でも最も多い事故類型ということができます。
厚生労働省が公表しているデータによれば、全産業において死亡者数が最も多いのは「墜落・転落」で182人となっており、次に多いのが、「交通事故(道路)」で132人とされています(令和5年12月速報値)。
墜落・転落事故は、最も多い事故類型である一方、その被害も重篤化・重症化することが少なくありません。
参考
会社・元請会社に対する損害賠償請求
重度の後遺障害を負ったり、ときには亡くなってしまったりすることもある墜落・転落事故では、被害者に対する損害賠償金は、相当高額になることも少なくありません(数千万円超というケースもあります)。
このような墜落・転落事故が発生した場合には、被害者の雇用先である会社や、元請会社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求や(民法415条)、不法行為責任に基づく損害賠償請求を行うことができるケースがあります(民法709条以下)。
もっとも、実際には被害者は会社や元請会社に対し、適切な損害賠償請求ができるケースであるにもかかわらず、労災保険給付を受け取るのみで、それ以上の損害賠償請求を行わないままとなってしまい、適切な損害賠償金を受け取ることができていないことも少なくありません。
労災被害に遭われた方は、会社や元請会社に対して損害賠償請求を行うことができるかどうか、また労災給付を受け取っただけで終了していないかどうかを確認していただく必要があります。
適切な損害賠償請求のために必要な3つのポイント
1 安全配慮義務違反の有無
墜落・転落事故の類型として、厚生労働省が公表する「職場のあんぜんサイト」では、以下のような事例が紹介されています。
- 2階の窓から冷蔵庫を吊り下ろしていたところ、窓の柵が外れて墜落しそうになった
【対策】2階以上の窓から家財を搬出する場合は、手すりや窓柵の強度を十分確認する。特にアルミ製窓柵は強度が足りないため、作業前に取り外し、親綱や墜落制止用器具などを使用して墜落を防止する。 - 足場の組立工事で足場上を歩行中、足場板のツメが破損して板が傾き、バランスを崩して転落しそうになった
【対策】目視でいいので足場板の事前点検を必ず行うこと。 - 脚立に乗ってレンチでボルトの増し締めをしている時、レンチが外れてバランスを崩し、脚立から転落しそうになった
【対策】レンチ等でボルトを締める時の作業位置は、不安定な姿勢を避けて作業者の腰の位置付近とすること。また、作業開始前にレンチに摩耗等の不具合がないことを確認すること。 - キャビネットに並べてある資料をとろうとしたところ、転落しそうになった
【対策】キャビネットの高い位置にある資料・書籍等をとろうとするときは、椅子を踏み台代わりに使用せず、踏み台、又は開き止め金具をしっかり架けた脚立等を使用すること。また、キャビネットは壁にしっかり固定すること。
それぞれの事故類型によって、講じるべき対策は異なりますが、これらの対策を講じていれば、未然に墜落・転落事故の発生を防ぐことができたといえます。
仮に、上記事故類型で深刻な労働災害が発生してしまっていた場合、各事故類型別の対策を講じていたかどうかが、会社の安全配慮義務違反の有無につながるといえます。
したがって、業務上の災害が発生した場合には、それぞれの事故原因及び対策を確認し、果たして会社側が十分に安全配慮義務を尽くしたということができるかどうかを検討する必要があります。
2 損害額の算定
重度の後遺障害を負ったり、ときには亡くなってしまったりすることもある墜落・転落事故の場合には、被害者の損害額を適切に評価する必要があります。
労働災害における主な損害項目を整理すれば、以下のとおりです。
過失割合
会社に対する安全配慮義務違反が認められ、かつ被害者の損害額を算定することができたとしても、過失割合が問題となるケースがあります。
過失割合とは、労災事故が起きた原因が会社側の安全配慮義務違反だけにあるわけではなく、被害者(労働者)側にも落ち度があると認められる場合に、損害額を一定程度減額するという制度になります。
労働災害における損害賠償請求が問題となるケースでは、会社側から、被害者(労働者)側にも落ち度があったとして、過失割合が争われるケースは少なくありません。
このように、過失割合が争われる場合には、被害者(労働者)側でも、労災事故の状況や、事前の会社側の対策(研修や教育制度、マニュアルや労災事故防止のための機材の手配等)が十分に講じられていたかどうかを主張・立証する必要があります。