損害賠償請求したい
損害賠償請求
被災者またはその遺族が労災保険給付を受けたとしても、労働災害による損害がすべて補償されたわけではありません。
被災者またはその遺族は、労働災害に対する安全配慮義務を怠った会社に対し、労災保険給付で賄われない損害を補填するために、その差額分を損害賠償請求することが可能です。
会社に対する損害賠償請求が可能なケース
被災者またはその遺族が会社に対して損害賠償請求できるケースは、大きく分けて次の2つが挙げられます。
他の従業員のミスによって被災した場合
他の従業員のミスによって被災した場合とは、例えば、他の従業員がフォークリフト等の重機の操作を誤ってしまい、被災者を轢いてしまったり、重量物を落下させたりしてしまったケースをいいます。
他の従業員のミスによって被災した場合には、被災者から会社に対する損害賠償請求は比較的容易といえます。
まず、被災者は、当該従業員に対し、不法行為責任に基づく損害賠償請求をすることが可能です(民法709条)。そして、会社は、当該従業員に対する使用者責任を負うところ(民法715条)、被災者に対する損害賠償責任を負担することになります。
被災者自身のミスによって被災した場合
一方、被災者自身のミスによって被災した場合とは、例えば、被災者自身が機械の操作を誤って手指を切断してしまったようなケースをいいます。
被災者自身のミスによる被災の場合、会社側は、被災者自身の落ち度による事故であるため、責任はないと否定することが少なくありません。
もっとも、会社が従業員に対して負う安全配慮義務とは、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準等、様々な要素を総合的考慮して判断されます。
したがって、会社の教育体制や機械の安全措置の講じ方等によっては、被災者に対する安全配慮義務違反があるとして、損害賠償責任が認められるケースもあります。
会社に対する安全配慮義務違反が認められるかは、個別の事情によって異なりますので、事前に慎重に検討する必要があります。
損害賠償請求の方法
被災者またはその遺族が会社に対し損害賠償請求する方法としては、主に、①示談交渉、②調停(ADR)、③訴訟、の3つが考えられます。
いずれの解決方法が適切かは、個別の事情によって異なるため、慎重に解決方法を選択する必要があります。
① 示談交渉
示談交渉は、当事者間で係争案件について直接交渉を行う裁判外手続になります。裁判外手続ですから、簡易迅速に紛争を解決することが期待できます。
一方、当事者間での交渉であり、第三者が仲介したり判断を示したりするわけではないため、示談内容の妥当性には疑問が残る可能性もあります。また、当事者間での合意が必要になるため、相手方が応じなければ解決はできないことになります。
② 調停(ADR)
ADRや調停は、示談交渉と訴訟の中間に位置する手続といえます。
第三者による仲介があることから、示談交渉よりも当事者双方の納得を得やすいほか、訴訟よりも経済的・時間的負担が少なく済みやすいというメリットがあります。
一方、ADRや調停は、お互いの合意がなければ解決しないため、終局的 な紛争解決ができなかったり、手続によっては相当程度の費用負担や時間的負担が発生したりするというデメリットがあります。
③ 訴訟
訴訟とは、当事者間の紛争に関し、裁判所による判断を求める裁判手続をいいます。
訴訟のメリットは、当事者間の合意がなくとも裁判所の判断によって終局的な解決を図ることができることにあります。
もっとも、訴訟では厳密な主張・立証が求められるため、時間的・経済的負担が他の手続よりも大きくなる傾向にあるほか、和解が成立しなければ柔軟な解決を図ることが難しいというデメリットがあります。