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労災申請の基礎知識と注意点 Q&A

目次

はじめに

労災(労働災害)に遭ったとき、どのように対応すればよいのか不安に感じる方は多いでしょう。労災申請は、適切な補償を受けるために必要な手続きですが、その手順や必要書類、注意点などが複雑で、初めての方には難しく感じるかもしれません。

本記事では、労災申請に関する基本的な知識や手続きの流れ、必要書類、費用、注意点、そして弁護士に相談するメリットについて解説します。少しでも不安を解消し、スムーズに手続きを進めるための参考にしていただければと思います。

労災申請とは?

労災保険と労災申請の概要

Q: 労災申請とは何ですか? 

労災申請とは、労働災害(労災)によって被った損害に対して、労災保険から補償金を受け取るために、労働基準監督署に対して行う必要な手続きを指します。

労災保険は、労働者が仕事中や通勤中に発生した怪我や病気、死亡などに対して、一定の補償を提供するための制度です。ただし、労災保険から補償を受けるためには、所定の手続きを経なければならず、労災が発生したらまずこの労災申請を行うことが重要です。逆に言うと、労災申請をしなければ基本的に補償金を受け取ることはできません。

Q: 労災申請は誰が行うのですか? 

労災申請は、原則として労災事故の被害者本人、またはその遺族が行います。しかし、会社が被害者や遺族に代わって申請することも可能です。被害者本人や遺族が申請する場合でも、申請書類の一部は会社に記入・証明してもらう必要があります。

Q: 労災申請には期限がありますか? 

はい、労災申請には申請する給付内容に応じた期限が設けられています。期限を過ぎると請求できなくなるため、注意が必要です。例えば、療養補償給付の場合は、療養費用の支出が確定した翌日から2年以内に申請しなければなりません。その他の給付内容にも、それぞれ異なる期限が設定されています。

労災保険給付の種類と申請期限

労災保険で提供される給付は複数あります。以下に主な給付の種類と、その申請期限をまとめます。

  1. 療養補償給付
    起算点:療養の費用の支出が確定した翌日から
    期 限:2年(ただし、療養の給付に関しては時効がありません)
  2. 休業補償給付
    起算点:賃金を受けない日ごとにその翌日から
    期 限:2年
  3. 障害補償給付
    起算点:傷病が治ゆ(症状固定)した日の翌日から
    期 限:5年
  4. 葬祭料
    起算点:従業員が亡くなった日の翌日から
    期 限:2年
  5. 遺族補償給付
    起算点:従業員が亡くなった日の翌日から
    期 限:5年
  6. 介護補償給付
    起算点:介護を受けた月の翌月1日から
    期 限:2年
  7. 傷病補償年金
    労働基準監督署長の職権で支給が決定されるため、時効はありません。

上記のように、給付内容ごとに申請期限が異なります。時効を過ぎてしまうと、労災保険からの補償を受ける権利が消滅してしまうため、申請は早めに行うことが大切です。

労災申請の手続きの流れ

労災申請の手順

Q: 労災申請の流れを教えてください。 

労災申請の手続きは以下のように進められます。

1. 必要書類の作成

労災保険の給付ごとに必要な書類が定められています。まずは、申請する給付内容に応じた所定の書類に記入し、提出できる状態にします。また、必要書類に加えて、添付資料(例:診断書など)を提出する場合もあります。この場合、必要な添付資料も収集しておくことが求められます。

2. 労働基準監督署に提出

完成した必要書類を労働基準監督署に提出します。提出方法は、直接所轄の労働基準監督署に持参するか、郵送する方法があります。提出後、書類が労働基準監督署に受理されます。

3. 審査と決定

労働基準監督署で受理された申請書類は、申請内容の審査が行われます。審査では、補償の要件を満たしているかどうかがチェックされます。審査が完了すると、その結果が申請者に文書で通知されます。

4. 補償金の振り込み

審査の結果、支給が決定した場合は、被害者や遺族が指定した銀行口座に補償金が振り込まれます。

この一連の手続きは、給付内容により異なる場合がありますが、一般的には上記の流れで進行します。

労災申請書の書き方

Q: 労災申請書はどのように書けばよいですか? 

労災申請書の書き方は、災害の内容や給付内容によって異なります。例えば、療養補償給付関係の申請書には、受診した病院の情報や治療内容、症状固定日などを記入します。以下に、記載上の重要なポイントをいくつか挙げます。

  • 治癒(症状固定日)年月日:これは、主治医が「これ以上良くも悪くもならない状態」と判断した日を記入する欄です。
  • 平均賃金:既に提出している場合を除き、別紙として「様式第8号別紙1」を提出する必要があります。

申請書の記入にあたっては、誤りがないように注意し、必要に応じて弁護士や専門家に相談することをお勧めします。

労災申請に必要な書類

主な必要書類

Q: どのような書類が必要ですか? 

労災申請には、災害の種類や給付内容に応じて異なる書類が必要です。具体的には以下のような書類が挙げられます。

1. 療養補償給付関係
  • 労災指定病院で受診する場合:療養補償給付請求書(様式第5号)
  • 労災指定病院以外で受診する場合:療養費用請求書(様式第7号)
2. 障害補償給付関係
  • 業務災害・複数業務要因災害:障害補償給付請求書(様式第10号)
3. 休業補償給付関係
  • 業務災害・複数業務要因災害:休業補償給付請求書(様式第8号)

これらの書類は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできる場合があります。必要な書類を漏れなく準備し、記入例を参考にしましょう。

書類の提出先と提出方法

Q: 書類はどこに提出すればよいですか? 

労災申請書類は、労働基準監督署に提出します。提出方法としては、次の2つがあります。

1. 直接提出

所轄の労働基準監督署に直接持参して提出します。この方法は、即時に受領を確認できるため、手続きが確実に進行するメリットがあります。

2. 郵送

労働基準監督署に郵送で提出します。この場合、郵便物の追跡が可能な方法(例:書留郵便など)を利用することをお勧めします。郵送の際には、封筒に「労災申請書在中」と明記するのが一般的です。

 

書類提出後は、労働基準監督署からの連絡を待ち、必要に応じて追加の対応を行いましょう。

労災申請にかかる費用

実費の負担

Q: 労災申請にかかる費用はありますか? 

労災申請には、労災保険でカバーされない実費が発生することがあります。これらの実費は自己負担となりますが、具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 入院個室代や差額ベッド代:労災保険では必要性が認められない場合、この費用は自己負担になります。
  • 申請書を提出する際の郵送費や交通費:これらの費用も自己負担となります。

診断書代とその補償

Q: 診断書代はどうなりますか? 

労災で必要な診断書代は、基本的に労災保険が負担してくれます。具体的には、次のような場合に診断書代が支給されます。

  • 障害補償給付関係:4000円まで補償
  • 傷病補償年金関係:4000円まで補償
  • 休業補償給付関係:2000円まで補償

ただし、個人で加入している保険(例:生命保険)に提出する診断書代や、会社に求められた診断書代は労災保険でカバーされないことがあります。注意が必要です。

労災申請の注意点

慰謝料について

Q: 労災申請では慰謝料を受け取ることはできますか? 

労災申請を行っても、精神的苦痛に対する慰謝料は労災保険から支給されません。慰謝料を受け取るためには、別途、会社や加害者に対して請求を行う必要があります。例えば、会社に対しては、安全配慮義務違反を根拠に慰謝料を請求することが考えられます。また、第三者に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが可能です。

証拠収集の重要性

Q: 労災申請で特に気を付けるべきことは何ですか? 

労災申請や、その後の会社に対する損害賠償請求などで重要なのは、証拠の収集です。労災の発生状況や怪我の程度を証明するための証拠が不十分であると、申請が認められない可能性があります。証拠収集には、次のような方法があります。

  • 事故発生状況報告書や現場写真の保管
    事故が発生した場所の状況を写真に収め、事故報告書を作成しておきましょう。
  • 診断書や医療記録の取得
    医療機関からの診断書や治療内容を記録した書類は、必ず保管しておくべきです。
  • 労働時間や業務内容の記録
    労働時間を証明するためのタイムカードや、業務内容を記録した日報なども重要な証拠となります。

これらの証拠を確保することによって、労災申請の成功率が高まります。また、証拠の改ざんを防ぐために、専門家のサポートを受けながら進めると安心です。

労災に詳しい弁護士に相談する

Q: 労災申請で困ったときはどうすればいいですか? 

労災申請の手続きは複雑で、場合によっては専門的な知識が必要となることがあります。このような場合は、労災に詳しい弁護士に相談することもご検討ください。労災の専門家である弁護士は、申請書類の作成や証拠収集のアドバイスを提供し、スムーズに手続きを進めるためのサポートを行います。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、労災分野に精通した弁護士が在籍しており、全国的にオンライン相談も受け付けています。労災に関するトラブルや疑問点がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。

労災申請に関するよくあるQ&A

労災申請書の提出から振込みまでの日数

Q: 労災申請書の提出から補償金の振り込みまでどのくらいかかりますか? 

労災申請書を労働基準監督署に提出してから補償金が振り込まれるまでの日数は、給付内容によって異なります。以下に、一般的な目安を示します。

  • 療養補償給付:1ヶ月程度
  • 休業補償給付:1ヶ月程度
  • 障害補償給付:3ヶ月程度
  • 遺族補償給付:4ヶ月程度

ただし、上記はあくまで目安であり、申請に不備があった場合はさらに日数がかかる可能性があります。

労災を本人が申請しない場合

Q: 労災を本人が申請しない場合はどうなりますか? 

基本的には、労災を本人が申請しない限り、給付を受け取ることはできません。そのため、治療費や生活費が自己負担になる可能性があります。しかし、会社が代行で申請することもありますので、会社のサポートを受けることができる場合は、早めに相談してみてください。

会社が労災を認めない場合の対応

Q: 会社が労災であると認めない場合も労災申請できる? 

はい、会社が労災を認めていない場合でも、被害者本人が労災申請を行うことができます。労災申請に対して会社の同意は不要です。ただし、申請書類の中に事業主の証明欄があり、会社が記入を拒否することがあります。この場合、労働基準監督署に状況を説明し、指示を仰ぐことが必要です。

派遣社員や取締役の労災申請

Q: 派遣社員も労災申請はできますか? 

はい、派遣社員でも労災申請は可能です。派遣社員の場合、申請書類の事業主証明欄は、派遣元からもらうことになります。

Q: 取締役が職務中に怪我をした場合、労災申請はできますか? 

原則として、取締役などの役員は労働者ではないため、労災保険の適用はありません。ただし、取締役が他の取締役から指揮命令を受けて賃金を得ており、実質的に労働者と認められる場合には、労災保険の適用が認められることがあります。

弁護士に相談するメリット

専門知識を活かしたサポート

労災申請は、申請書類の作成や証拠収集が重要であり、少しのミスが補償を受けるうえで大きな影響を与えることがあります。弁護士に相談することで、法律の専門知識を活かし、申請手続きのサポートを受けることができます。また、弁護士が関与することで、会社とのトラブルもスムーズに解決できる可能性が高まります。

交渉力と法律的な視点

労災に関する法律は複雑で、一般の方がすべてを理解するのは難しいことが多いです。弁護士は、法律的な視点から状況を分析し、最も有利な方法で交渉を進めることができます。例えば、会社が労災申請を拒否した場合でも、弁護士が交渉に介入することで、状況を改善できることがあります。

手続きの迅速化とストレス軽減

労災申請は、提出書類の不備や審査の遅延などで時間がかかることがあります。弁護士に依頼することで、手続きの迅速化が図られ、申請者自身のストレスを軽減することができます。特に、労災による怪我や病気で治療に専念したい場合は、弁護士に手続きを任せることで、安心して治療に集中できるでしょう。

まとめ

労災申請は、労働者が適切な補償を受けるために不可欠な手続きです。しかし、その手順は複雑で、申請に不備があると補償を受けられない可能性があります。

労災に関するトラブルや疑問がある場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。当事務所では、労災分野に精通した弁護士が対応し、迅速かつ確実なサポートを提供します。全国対応のオンライン相談も可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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