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労災申請に必要な書類と手続きの流れにおける実務のポイント

はじめに

「仕事中にケガをしてしまった」「通勤途中に交通事故に遭い、大けがを負ってしまった」こうしたトラブルに直面した際、まず頭をよぎるのが「治療費はどうなるのか」「会社は補償してくれるのか」という不安ではないでしょうか。

本来、業務上の災害(業務災害)や通勤途中の事故(通勤災害)で負ったケガや病気については、労災保険が適用される可能性があります。労災保険を利用すれば、治療費を原則ゼロ負担にできたり、休業中の賃金を補償してもらえたりするなど、大きなメリットがあります。

しかし、いざ申請する段階になると、「どんな書類が必要なの?」「手続きの流れがよく分からない」「会社が協力してくれない場合はどうすれば?」など、戸惑う点も少なくありません。

そこで本稿では、労災申請に必要な主な書類の種類や、その書き方・集め方、実務上の手続きの流れを詳細に解説していきます。万が一の事態に備えて知識を身につけておきたい方や、すでに労災事故に遭ってしまって対応に苦慮している方の参考になれば幸いです。

Q&A

まずは「労災申請」にまつわるよくある疑問をQ&A形式で紹介します。詳細は後述する「3 解説」でもご紹介しますので、概要をつかむためにお役立てください。

労災申請にはどんな書類が必要ですか?

代表的なものに、「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」「休業補償給付支給請求書(様式第8号)」などがあります。負傷や病気の状況に応じて書類が異なり、会社や医療機関の記入が必要な場合もあるため、まずは労働基準監督署や専門家に確認するとスムーズです。

会社が協力してくれない場合、申請はできないのでしょうか?

会社が非協力的でも、労働者本人が直接、労働基準監督署に書類を提出し、労災保険を申請することができます。会社の印鑑や証明がないとスムーズに進まない部分はありますが、専門家の助けを借りて記入漏れをカバーする方法なども考えられます。

手続きの流れは大まかにどうなっていますか?

大まかには【会社への報告 → 書類の作成 → 医療機関での診断書取得 → 労働基準監督署への提出 → 審査 → 結果通知】の流れです。書類ごとに提出先や要件が異なるため、必要に応じて監督署や専門家に相談してください。

申請の際に医療機関からも書類をもらう必要がありますか?

はい。労災申請では診断書や診療報酬明細書が必要になるケースがあります。ケガの程度や治療期間、診断内容などを証明するため、医師の協力が不可欠です。

どれくらいの期間で結果が分かりますか?

事故の内容や書類の不備状況によって大きく変わりますが、複雑な場合や書類に不備が多い場合は数か月かかることもあります。不支給になった場合でも異議申立を行う選択肢があり、さらに時間がかかる場合もあるので、お早めの準備が肝心です。

労災申請に必要な代表的書類

ここでは、「どんな書類が必要か」「どのような流れで提出すればいいのか」を中心に詳しく見ていきます。

療養補償給付関係(治療費の申請)

様式第5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」

業務災害または通勤災害で医療機関にかかる際、治療費を労災保険で負担してもらうための書類です。

  • 会社記入欄本人記入欄があります。会社の押印が必要なため、会社に協力を仰ぎましょう。
  •  この様式第5号を医療機関に提出すると、窓口での治療費が原則自己負担ゼロになります(労災指定医療機関の場合)。
  • 万一、会社が協力しないときは、本人記入部分だけでも受理可能ですが、その後に労働基準監督署が会社へ事実確認を行う手間がかかる可能性があります。
療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)

「労災指定医療機関以外」で受診する場合に使う書類です。

休業補償給付関係(休業時の賃金補償)

様式第8号「休業補償給付支給請求書」

仕事や通勤が原因でケガをし、療養のために働けない日が4日以上続く場合、休業補償給付を請求できます。その際に用いるのがこの書類です。

  • 医師の証明(就業不能の期間など)や、会社による賃金額の証明が必要です。
  • 給付基礎日額の60%相当+特別支給金として20%相当が支給される形が一般的です(合計80%)。
  • 提出先は労働基準監督署で、支給が認められれば休業補償給付が定期的に振り込まれます。

障害補償給付関係(後遺障害の申請)

様式第9号「障害補償給付支給請求書」

ケガが治った段階(症状固定)で後遺障害が残った場合は、障害等級の認定を受けることで「障害補償給付」を支給してもらうことが可能です。その請求書が様式第9号です。

  • 医師の後遺障害診断書が必要になります。
  • 認定された等級に応じて、一時金または年金の形で給付が支給されます。

遺族補償給付関係(死亡事故の申請)

様式第10号「遺族補償給付支給請求書」

労災事故で労働者が死亡した場合、遺族が「遺族補償給付」を受け取るために必要な書類です。

  • 戸籍謄本など、遺族が給付を受ける権利を証明するための書類もそろえる必要があります。
  • 提出後、労働基準監督署が事故状況等を調査し、認定されれば年金または一時金が支給されます。

労災申請の基本的な流れ

  1. 会社への報告・相談
    仕事中や通勤途中にケガをしたら、まずは会社の上司や担当部署に報告します。会社は「労働者死傷病報告」を労働基準監督署へ提出すると同時に、労災保険手続きを進めるのが一般的です。
  2. 書類の作成・必要情報の取得
    会社が用意してくれることが多いですが、非協力的な場合、被災者自身が労基署で入手して記入することもできます。医師の診断書や賃金台帳、タイムカード等、必要な証拠を集めましょう。
  3. 医療機関で診断書等を取得
    治療内容や症状、休業の必要性などを医師に証明してもらうことが必要です。指定された書類への記入や、別途発行してもらう診断書などを準備します。
  4. 労働基準監督署に申請書類を提出
    書類の提出先は、原則として会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。書類に不備があると受理されない場合や、審査に時間がかかるケースがあります。
  5. 監督署の審査・調査
    提出書類をもとに、監督署が「業務起因性・通勤起因性があるか」「申請内容が妥当か」をチェックします。必要に応じて会社に対する聞き取り調査や、医師からの追加情報を求めることもあります。
  6. 支給決定・結果通知
    給付の可否や金額が決定したら、申請者に結果が通知されます。認定されれば療養補償や休業補償などが給付され、不支給の場合は理由が書面で示されます。

会社が協力しない場合の対応

会社が「労災ではない」「手続きは自分でやって」と渋るなど、非協力的な姿勢を示すことがあります。しかし、労災保険は労働者の権利であるため、会社の協力がなくても本人が直接、労働基準監督署に申請できます。

ただし、会社記入欄や賃金額の証明欄などが空白だと、監督署が事実関係を追加調査する必要があるため、結果的に時間がかかることが少なくありません。弁護士や社会保険労務士に相談しながら、書類を整えるのがおすすめです。

書類作成のポイントと注意点

  1. できるだけ詳細かつ正確に記入する
    事故が起きた日時や場所、状況などを簡潔かつ正確に書く必要があります。曖昧な表現や事実と異なる内容を書くと、後々の審査でトラブルになりかねません。
  2. 医師の所見を反映
    「いつからいつまで休業が必要なのか」「後遺障害が残る可能性はあるか」など、医師の見解は重要です。休業補償給付の申請で就業不能期間を証明してもらうときなど、医師の診断書や意見書が必要になることが多いので、早めに相談しておきましょう。
  3. 会社の賃金証明欄
    休業補償給付などで支給額を算出する際には、給付基礎日額が基準となります。会社が賃金台帳をもとに証明する部分で誤りがあると、受給額にも影響が及ぶため注意が必要です。
  4. 提出書類のコピーを手元に残す
    提出後に「どこまで記入していたか」「どんな証拠を添付したか」などを確認するため、コピーや写真データを保管しておきましょう。紛失や誤提出などのリスクを下げられます。

不支給決定と異議申立

もし労働基準監督署が「労災として認められない」として不支給決定を下した場合でも、審査請求や再審査請求といった不服申立手続きで争うことが可能です。

この際、追加の証拠(事故当時の写真・証言、会社の業務指示書類など)や医師の意見書などを提出して再度審理を受けることになります。会社との意見が対立する場合や、法的な主張が必要な場合は、弁護士に依頼することを検討してください。

弁護士に相談するメリット

労災申請の手続きでは、多数の書類を整えたり、事実関係を立証したりといった複雑な作業が伴います。また、会社が非協力的だったり、業務起因性が否定されそうだったりする場合は、トラブルが深刻化する恐れも。以下に弁護士へ相談・依頼するメリットを整理します。

  1. 煩雑な書類作成をサポート
    申請書類を漏れなく、正確に作成するのは容易ではありません。弁護士は必要な書類や記入事項を的確に把握しているため、手続きのスピードアップとミスの防止に貢献します。
  2. 会社との交渉窓口になれる
    「これって本当に業務災害?」「通勤途中の事故はプライベートでしょ?」など、会社が争ってくる場合でも、弁護士が法律知識と証拠に基づき交渉できます。本人が言いづらいことも、弁護士ならば代理人として主張しやすくなります。
  3. 不支給になった場合の異議申立手続き
    労働基準監督署が不支給決定をした場合、審査請求・再審査請求で再検討を求めることができますが、法的知識や書面作成が必要です。弁護士のサポートがあると不服申立の成功率が上がることも期待できます。
  4. 民事賠償請求も含む総合的サポート
    労災保険でカバーしきれない損害(たとえば慰謝料や逸失利益など)について、会社の安全配慮義務違反を根拠に民事賠償請求を検討できる場合があります。弁護士ならば示談交渉や裁判対応を一括して行えます。
  5. ストレス軽減と治療専念
    ケガや病気で苦しんでいるときに、書類作成や会社とのやり取りに追われるのは精神的負担が大きいものです。弁護士に依頼すれば手続きの主体を任せられ、被災者は治療や回復に専念できます。

まとめ

労災申請に必要な書類と手続きの流れは、一度覚えてしまえばそれほど難しくないように見えますが、実際には多くの書類が存在し、それぞれに会社や医師の証明・記入が必要となるため、ハードルが高いのも事実です。

とりわけ会社が非協力的だったり、複雑な事情で業務起因性を疑われていたりする場合は、書類不備や認定トラブルが起きやすくなります。ですが、労災保険は労働者のための制度であることを忘れないでください。会社の協力が得られなくても、ご自身で労働基準監督署に直接申請する道が開かれています。

「正しい書類がどれなのか分からない」「会社が押印してくれない」といった問題に直面したら、早い段階で専門家――とくに労災に詳しい専門家に相談するのがおすすめです。証拠収集のポイントや、監督署へのスムーズな申請手順など、的確なサポートを受ければ、時間と労力を節約できます。

事故やケガが起きてから「もっと早く知っておけばよかった」と後悔しないよう、普段から労災保険の基本的な仕組みと書類の概要を押さえておきましょう。

動画のご紹介

労災でお悩みの方に向けて、労災に関する解説動画を公開しています。ぜひご視聴ください。

【労働災害の動画のプレイリストはこちら】

この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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