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休業補償給付の概要と計算方法

はじめに

「仕事中にケガや病気になり、働けなくなったら、いったい収入はどうなるのだろう?」

こうした不安は、多くの労働者が抱える疑問の一つです。業務上または通勤中の事故・傷病で長期休業を余儀なくされた場合、労災保険は「休業補償給付」という仕組みを用意しており、休業中の賃金を一定割合で補償してくれます。

日本の労働者は、仕事上のケガや病気による収入減を防ぐために、この休業補償給付を活用することができます。しかし、会社が拒否的な態度を示したり、労災申請の手続きがわかりにくいなどの理由で、適正な給付を受け取れていないケースも少なくありません。また、「一体いくらもらえるの?」「どの期間が対象になるの?」など、計算方法や支給要件の詳細を把握できずに困る方も多いのが実情です。

本稿では、休業補償給付の基礎知識から支給要件、給付額の計算方法、請求手続きの流れ、そして支給打ち切り問題などのトラブル事例や注意点を解説していきます。万が一、自分や同僚が業務上のケガ・病気で休まざるを得なくなったとき、適正に給付を受けるための参考にしてください。

Q&A

はじめに、休業補償給付に関する代表的な疑問をQ&A形式で整理します。詳細は後述の「3 解説」で取り上げます。

Q1. 休業補償給付はどんな仕組みですか?

労災保険において、業務上・通勤上のケガや病気によって働けず賃金を得られない期間の生活を保障するため、賃金日額の約80%を受け取れる制度です。具体的には、給付基礎日額の60%が「休業補償給付」、加えて特別支給金として20%が上乗せされます。

Q2. 病院にかかった初日から支給されるの?

休業補償給付は仕事を休んだ最初の3日間(待期期間)は支給対象外とされ、4日目以降が対象となります。初日から3日目までは会社が「休業補償」を払う必要があるかどうか、労基法などで検討される場合があります(いわゆる「待期補償」問題)。

Q3. 給付基礎日額って何ですか?

労災保険で使われる賃金の日額換算の指標であり、労災発生前3か月間の賃金合計を日割りして決定する方法などがあります。休業補償給付や障害補償給付など、給付金の計算の基礎となる大切な数字です。

Q4. 途中で治ったと判断され、支給を打ち切られることがあると聞きましたが?

病状が固定して治癒(もしくは症状固定)と判断されたり、業務災害との因果関係が薄れたりした場合、監督署が支給を打ち切ることがあります。納得いかないときは不服申立(審査請求や再審査請求)で争う道があります。

Q5. 会社が協力してくれなくても休業補償給付をもらえますか?

はい。労災保険は被災労働者本人が直接、労働基準監督署に申請できます。会社の協力が得られなくても、書類を自分で揃えれば認定される可能性があります。弁護士や社労士に相談するとスムーズです。

解説

それでは、休業補償給付の支給要件計算方法、さらに申請手続きトラブル対処法を詳しく解説します。

休業補償給付の要件と仕組み

業務上・通勤上のケガ・病気で働けないこと
  • 業務災害または通勤災害と認定され、業務起因性が確定していることが前提。
  • ケガや病気によって実際に就労できない状態にあり、賃金を受け取れない期間が対象。
初日の待期3日間
  • 労基法上のルールなどにより、休業開始から最初の3日間を「待期期間」といい、原則として労災保険からは支給されない。
  • この3日間は会社が休業補償(平均賃金の60%以上)を払う義務があるか、あるいは労働者が有休を使うなどして対応する場合もある。
4日目以降が休業補償給付の対象
  • 待期が明けた4日目以降は、労災保険の休業補償給付が適用される。
  • ケガや病気が治る(治癒)まで、または症状固定になるまで、継続的に給付を受けることが可能。

給付額の計算方法

給付基礎日額(給基日額)
  • 過去に支給された賃金をベースに算出される労災保険固有の指標
  • 発生前3か月間の賃金総額を暦日数(90日程度)で割るなど、詳細な計算ルールが法律や通達で定められている。
  • ボーナスや残業代なども含めた形で計算される場合が多く、会社が提出する賃金台帳が基礎資料となる。
休業補償給付の支給率
  • 給付基礎日額の60%相当が「休業補償給付」として支給される。
  • 加えて、特別支給金として20%相当が上乗せされるため、合計80%程度を受け取ることができる(実質的に「給付基礎日額の8割」のイメージ)。
1日の上限・下限
  • 給付基礎日額には法令上の上限額・下限額が設定されており、高収入の人や低収入の人でも一定の範囲で給付が決まる。

手続きの流れと書類

様式第8号「休業補償給付支給請求書」
  • 休業補償給付を受けるために労働者が労働基準監督署へ提出する主要書類。
  • 会社の証明欄(賃金情報や休業開始日など)や医師の証明欄(就業不能期間の証明など)が必要。
診断書・医証の準備
  • 医師の診断書で就労不能期間を明確に示すことが重要。期間の延長があれば随時書類を追加して提出する。
  • 会社が非協力的でも、医師と相談して書類を揃え、監督署に直接申請できる。
会社の非協力と対策
  • 会社が「業務上のケガではない」と言い張り、様式第8号への記入を拒否する場合、監督署が会社に照会を行って事実を確認する仕組みがある。
  • 労働者は必要な証拠(作業日報、事故状況、同僚の証言など)を用意して、業務起因性を主張する。

支給打ち切りとトラブル

治癒(症状固定)と判断されるケース
  • 監督署や医師が「これ以上治療しても症状が改善しない(症状固定)」と判断すれば、休業補償給付は終了となり、障害補償給付の対象に切り替わる可能性がある。
  • 被災者が「まだ治療が必要だ」と感じても、医師や監督署の判断が優先されるため、納得できない場合は異議申立を検討。
不当な打ち切り・支給停止
  • 会社や監督署が誤って「もう治った」とみなしたり、業務上外と再判断する場合、労災審査会への不服申立(審査請求・再審査請求)で争う道がある。
  • 弁護士や社労士にサポートを得ると、医学的証拠や作業実態をしっかり提示できる。

よくある注意点

  1. 日額計算ミス
    会社が賃金台帳を誤って記載している、ボーナスを含めるべきなのに含めていないなど、給付基礎日額の計算が正しくないケース。自分で確認することが重要。
  2. 他の社会保険との併用
    健康保険の傷病手当金や雇用保険の失業給付と同時給付はできない場合がある。労災保険が優先されるのが通常。
  3. 転院や病院変更
    指定医療機関から別の医療機関へ転院する場合、療養補償給付との関係で事前に監督署への手続きが必要になることがある。
  4. 休業補償給付の延長
    会社が「そろそろ復帰してほしい」と圧力をかけてくる場合でも、医師の就業可否の判断が最優先。無理に復帰して悪化したら新たなトラブルが生じる。

弁護士に相談するメリット

  1. 書類作成と証拠整理をサポート
    休業補償給付は様式第8号、医師の証明欄、会社の賃金証明など多数の書類が必要。弁護士がポイントを押さえたアドバイスを行い、スムーズに手続きを進められる。
  2. 会社が協力しない場合の交渉
    会社が休業補償給付の手続きを拒否、または虚偽記載をするなどのトラブルが起きた場合、弁護士が代理で交渉し、監督署への適切な報告を促す。
  3. 打ち切り問題や不支給決定への対処
    医師や監督署が「治癒」と判断して打ち切られたが、実際には治癒していないと主張したい場合、弁護士が異議申立(審査請求・再審査請求)で追加証拠を提出し、判断を覆す可能性を高める。
  4. 損害賠償請求も視野
    会社の安全配慮義務違反が明白な場合、休業補償給付だけでは足りない損害(慰謝料や逸失利益など)を別途請求することがあり、弁護士が示談・裁判の代理を行う。
  5. 他の給付や制度との連携
    障害が残れば障害補償給付や障害年金との関係、休業が長引けば休業補償打ち切り後の対応など、弁護士が総合的にアドバイスを提供できる。

まとめ

休業補償給付は、業務災害や通勤災害によって働けなくなった労働者の収入を補償する労災保険制度の重要な柱です。

  • 最初の3日間(待期期間)は支給対象外で4日目から給付が始まる
  • 給付基礎日額の60%(休業補償給付)+20%(特別支給金)で合計約80%を受給できる
  • 治癒(症状固定)まで受給が続き、医師の判断や監督署の認定で打ち切りになることがある

会社が労災保険を使わせないよう誘導する、健康保険で処理しろと圧力をかけるなどの行為は不適切です。被災者本人は労働基準監督署に直接申請し、認定を受ける道があります。
もし手続きで不安があったり会社が非協力的なら、弁護士などの専門家へ相談し、適切な書類作成や異議申立を進めましょう。労災事故の被害者が安心して治療・休養できるよう、この休業補償給付を正しく理解し、有効に活用していただきたいと思います。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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