障害補償給付と後遺障害認定
はじめに
仕事中のケガや病気が治った(あるいは症状固定した)後に、後遺障害が残ってしまうことがあります。例えば、指の切断や視力の低下、運動能力の喪失など、完全には回復せず生活や仕事に影響が及ぶケースです。こうした場合、労災保険には「障害補償給付」という仕組みがあり、後遺障害の程度(障害等級)に応じて給付金が支給されます。
しかし、「障害等級ってどうやって決まるのか?」「会社が非協力的で後遺障害認定を申請してくれない」「いつまでに申請すればいいのか」など、実務上の疑問は多岐にわたります。身体障害ばかりでなく、精神障害(うつ病など)の後遺症も対象になる場合があり、認定基準や書類手続きの複雑さに苦労する方が少なくありません。
本稿では、障害補償給付の基本的な考え方から、後遺障害認定の流れ、障害等級と給付の金額、申請手続きのコツや打ち切りトラブルなどを解説します。重度の後遺障害が残った方や、会社との交渉に悩む方が正当な保障を受け取るための参考にしていただければ幸いです。
Q&A
はじめに、障害補償給付や後遺障害認定に関する代表的な疑問をQ&Aでまとめます。詳細は後述の「3 解説」で深掘りします。
Q1. 障害補償給付はどんな仕組みですか?
業務上・通勤上のケガや病気で治療した結果、後遺障害が残った場合、その障害の程度(等級)に応じて年金や一時金が支給される仕組みです。これを総称して「障害補償給付」と呼びます。
Q2. 後遺障害って、具体的にどんな状態を指すのでしょう?
体の一部を失ったり、視力・聴力などが低下したり、関節が固まったりといった「治癒後も回復しない身体機能の損なわれ方」を指します。精神疾患の場合でも、治癒後に一定の障害が残れば後遺障害認定の対象となる可能性があります。
Q3. 障害等級はどうやって決まりますか?
厚生労働省の定める障害等級表(1級〜14級)に基づき、後遺症の部位や程度を判定します。医師の意見書や検査結果などをもとに、労働基準監督署が最終的に等級を認定します。
Q4. 一度等級が決まったら、変更はできないのですか?
後遺障害が進行・悪化した場合などに再認定請求が認められるケースがあります。逆に「実は症状が軽減している」と会社や保険側が主張する場合は、等級が下がる可能性も否定できません。
Q5. 会社が認めない場合でも、後遺障害認定を進められますか?
はい。労災保険は被災者本人が労働基準監督署に直接申請できます。会社が非協力的でも、医師の診断書や検査結果を揃えれば、等級認定を獲得できる可能性があります。
解説
ここでは、障害補償給付の全体像から後遺障害認定の手順、給付金額の計算、トラブル事例などを取り上げます。
障害補償給付の全体像
業務上・通勤上の後遺障害
- 治療(療養補償給付)を続けても、完全に回復しない状態になった場合、すなわち症状固定と診断され、後遺障害が残ったと認められると、障害補償給付が支給される。
- 支給形態は年金と一時金の2種類があり、障害等級1級〜14級により対応が異なる。
給付基礎日額と等級の関係
- 支給金額は、給付基礎日額(労災保険独自の賃金日額換算)をベースに計算される。
- 障害等級が上位(1級に近い)ほど支給水準が高く、年金の形で支給される範囲も広い。下位(14級など)だと一時金での支給となる。
後遺障害等級と認定の流れ
医師の「症状固定」判断
- 怪我や病気の治療を続けても、これ以上回復が見込めない状態(症状固定)になれば、医師が後遺障害診断書を作成する。
- この時点で休業補償給付は打ち切られ、障害補償給付の手続きに移行する。
障害補償給付支給請求書(様式第10号)
- 労災保険で後遺障害認定を受けるには、様式第10号に医師の診断を添付し、労働基準監督署へ提出する。
- 会社の証明欄も必要だが、非協力的なら監督署が会社側に照会を行う仕組みがある。
労働基準監督署の審査
- 提出書類や検査結果、画像診断、医師の所見などを総合的に見て、障害等級がいくつに当たるかを監督署が判断。
- 必要に応じて専門の医師意見を求めたり、追加書類を請求したりする場合がある。
障害等級と給付の内容
1級〜14級
- 1級:障害の程度が最も重く、両眼の失明や四肢の完全麻痺など。給付基礎日額の313日分を年金として受け取れる。
- 2級〜7級:重度の後遺障害があり、比較的高い年金給付を受けられる。
- 8級〜14級:軽度・中程度の障害。一時金の支給対象となる等級もある(8級〜14級のうち8級〜13級は年金と一時金の選択肢があり、14級は一時金のみなど、細かい規定あり)。
年金 vs. 一時金
- 1級〜7級:障害補償年金として、給付基礎日額×一定日数分を年金形式で支給。
- 8級〜14級:障害補償一時金として、給付基礎日額×一定日数分を一括支給。
- 細かな支給率は厚生労働省の等級表に定められており、会社や監督署の担当者が確認。
申請手続きとトラブル例
会社の非協力や隠蔽
- 会社が「症状固定じゃない」「そもそも業務と無関係」などと主張し、様式第9号の記入を拒否する事例もある。
- 被災者本人が監督署に直接申請可能であり、会社の協力がなくても認定を受けられる。
等級が思ったより低い
- 監督署から通知された等級が、被災者の想定よりも低い場合は、再認定請求や不服申立を検討。
- 医師の追加意見書やCT・MRI画像など、詳細な医学的証拠があれば変更される可能性あり。
精神障害の後遺症
- うつ病などで症状固定に至った後も、高い等級が認められる可能性は限定的だが、事例によっては「就労能力が大幅に制限される」と判断されて認定されることも。
- 専門医の診断書や心理テストの結果などが重要。
注意点と会社の安全配慮義務
障害が残った原因が会社の責任
- 会社が安全装置を設置せず機械に手を挟まれた、長時間労働放置で精神疾患になったなど、会社の安全配慮義務違反が明確なら、労災保険の給付以外に損害賠償請求が可能。
- 特に障害等級が上位の重度障害だと、逸失利益や慰謝料で数千万円以上の賠償が認められるケースもある。
治療後の職場復帰支援
- 障害補償給付を受けても、後遺障害がある労働者が職場復帰するには業務内容の変更や合理的配慮が必要な場合がある。
- 会社がこれを拒んで差別的扱いをするなら、労働法や障害者雇用促進法上の問題が発生する可能性も。
弁護士に相談するメリット
- 後遺障害認定のサポート
医師の診断書や画像検査結果などを整理し、障害等級表のどの項目に該当するかを検討。監督署への申請書類を適切に作成し、認定取得を目指す。 - 会社との協力が得られない場合の交渉
会社が「そもそも業務外だ」「症状固定のタイミングがおかしい」などと争ってくる場合、弁護士が代理人となって監督署へ適切に情報提供を行い、被災者の権利を守る。 - 打ち切りや不当な認定の異議申立
監督署が低い等級を付与したり、支給を打ち切ったりする決定に不服があれば、審査請求・再審査請求で争う道がある。弁護士が法的根拠を整理し、追加証拠を提出して認定変更を狙う。 - 損害賠償請求も含む総合対応
会社に重大な過失がある場合、逸失利益や慰謝料を別途請求する。弁護士が示談や裁判を通じてより多角的な補償獲得をサポート可能。 - 職場復帰や転職時のアドバイス
後遺障害を抱えながら、現在の業務を続けられない場合、弁護士が労働問題全般の視点でアドバイスを提供。職場復帰プログラムや退職後の転職支援の法的問題にも対応できる。
まとめ
障害補償給付は、業務上・通勤上のケガや病気が治らず後遺症が残った場合に受けられる、労災保険の重要な給付です。
- 治療が終了(または症状固定)した時点で後遺障害認定を受け、障害等級1級〜14級のいずれかに該当すると判断されれば、年金または一時金が支給される。
- 会社が非協力的でも、労働者本人が監督署へ直接申請でき、医師の診断書や各種検査結果をもとに労働基準監督署が最終判断を下す。
認定等級が思ったより低い場合は、不服申立や再審査請求で争える仕組みがあるほか、会社に安全配慮義務違反があるなら、損害賠償請求(慰謝料・逸失利益など)も含め多角的に検討する余地があります。もし後遺障害が重く生活に支障を来すなら、障害年金や他の社会保障制度との併用も選択肢となるでしょう。
「もう症状は回復しない」と諦めてしまわず、弁護士などの専門家へ相談しながら適正な等級認定と補償を追求することをおすすめします。
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