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後遺障害が残った場合に支給される障害(補償)給付(年金・一時金)とは

はじめに

「これ以上は、治療を続けても良くはなりません」
「残念ですが、この先、この障害と付き合っていくことになります」

労働災害による大きな怪我や病気。懸命な治療を続けたにもかかわらず、医師からこのように「症状固定」の診断を告げられたとき、そのショックや絶望感、そして将来への底知れぬ不安は、計り知れないものがあるでしょう。

失われた身体の機能は、もう元には戻らないかもしれない。しかし、その失われたものと引き換えに、あなたの今後の人生を経済的に力強く支えるために、労災保険制度には、最も重要な給付の一つである「障害(補償)給付」が用意されています。

この記事では、後遺障害という重い負担を背負うことになった、あなたとご家族のために、この障害(補償)給付とはどのような制度なのか、その全体像を解説していきます。

障害(補償)給付とは?

請求のスタートラインは「症状固定」

障害(補償)給付とは、労災による傷病の治療を続けた結果、治癒(症状固定)したものの、身体に一定の身体的または精神的な障害(後遺障害)が残ってしまった場合に、その障害によって失われたり、低下したりした労働能力を補うために支給される給付金です。

この給付を請求できるタイミング、つまり、そのスタートラインとなるのが、医師による「症状固定」の診断です。

症状固定とは、これ以上治療を続けても、その効果が期待できない状態のことです。この症状固定の診断をもって、治療費などを補償する「療養(補償)給付」は終了となり、後遺障害に対する補償である「障害(補償)給付」の請求手続きへと移行するのです。

補償内容を決める「後遺障害等級」とは?

あなたが受け取る障害(補償)給付の具体的な金額や内容は、国が定めた「後遺障害等級」によって決まります。

後遺障害等級とは、残ってしまった後遺障害の部位や、その重さの程度に応じて、最も重い第1級から、最も軽い第14級まで、14の段階に区分したものです。

【後遺障害等級の例】

  • 第1級:両眼が失明した、常に介護が必要な状態など
  • 第5級:片腕を手首から失ったなど
  • 第9級:片方の足の指をすべて失ったなど
  • 第12級:局部に、頑固な神経症状(痛みやしびれ)が残ったなど
  • 第14級:局部に、神経症状が残ったなど

あなたがどの等級に認定されるかによって、受け取れる給付額は、数百万円から、場合によっては生涯にわたり数千万円以上と、大きく変わってきます。そのため、あなたの障害の状態に見合った「適切な後遺障害等級」の認定を得ることが、この手続きにおける目標となります。

【等級で決まる】給付は「年金」と「一時金」の2種類

認定された後遺障害等級によって、給付金の支払われ方が、毎年受け取る「年金」と、一度にまとめて受け取る「一時金」の2種類に分かれます。

① 障害(補償)年金(第1級~第7級の場合)

後遺障害の程度が比較的重く、労働能力への影響が大きい第1級から第7級に認定された場合に支給されます。

原則として、生涯にわたって(または障害の状態が続く限り)、毎年一定額の年金を受け取ることができます。

【年金額(保険給付分)】

  • 第1級:給付基礎日額の313日分
  • 第2級:給付基礎日額の277日分

  • 第7級:給付基礎日額の131日分

これに加え、上乗せとして「障害特別年金」と、一時金である「障害特別支給金」も支給されます。

② 障害(補償)一時金(第8級~第14級の場合)

後遺障害の程度が、年金が支給されるほどではない、第8級から第14級に認定された場合に支給されます。

年金と違い、補償額が一時金として、一度にまとめて支払われます。

【一時金額(保険給付分)】

  • 第8級:給付基礎日額の503日分
  • 第9級:給付基礎日額の391日分

  • 第14級:給付基礎日額の56日分

これに加え、上乗せとして「障害特別一時金」「障害特別支給金」も支給されます。

障害(補償)給付の請求手続きの流れ

  1. 医師から「症状固定」の診断を受ける。
  2. 治療を担当してくれた医師に、後遺障害の状態を詳細に記載した「後遺障害診断書」を作成してもらう。
  3. 「障害(補償)給付支給請求書(様式第10号など)」を作成する。
  4. 上記2つの書類を、会社の所在地を管轄する労働基準監督署に提出する。
  5. 労働基準監督署による審査が行われる。(必要に応じて、労基署の委託した専門医との面談などが行われることがあります)
  6. 後遺障害等級が決定され、その結果(支給または不支給)が通知される。

この流れの中で、特に②の「後遺障害診断書」の内容が、等級認定の結果を大きく左右すると言っても過言ではありません。

まとめ

適切な等級認定が、あなたの未来を支えます

障害(補償)給付は、後遺障害という、生涯にわたる重い負担を背負うことになったあなたの、これからの人生を経済的に支えるための、重要なセーフティーネットです。

  • 請求は「症状固定」の診断から始まる。
  • 給付内容は「後遺障害等級(第1級~第14級)」によって決まる。
  • 重い等級(1~7級)は「年金」、それ以外(8~14級)は「一時金」が支給される。

あなたが受けた傷害に見合った「適切な後遺障害等級」を認定してもらうことが、何よりも重要です。

しかし、後遺障害等級の認定手続きは、医学的・法律的な専門知識が複雑に絡み合う、難しいプロセスです。医師が作成する後遺障害診断書に、認定に必要な情報が十分に記載されていなかったり、労基署の面談でご自身の状態をうまく説明できなかったりしたために、本来よりも低い等級に認定されてしまうケースは、決して少なくありません。

後から「こんなはずではなかった」と後悔しないために、症状固定の診断を受け、障害(補償)給付の請求を考え始めた段階で、労働災害と後遺障害に詳しい弁護士にご相談ください。私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所が、適切な後遺障害等級認定の獲得に向けて、あなたをサポートいたします。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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