労災後遺障害申請ガイド:症状固定後に知っておきたい実務ポイントと対策
Q&A
Q:症状固定とは何ですか?
A:症状固定とは、治療を続けてもこれ以上症状が大きく改善しない状態に達したことを指します。労災事故でケガを負い、長期間治療を受けていても、ある段階で医師から「これ以上は良くならない」または「状態が安定した」と判断される場合があります。これがいわゆる症状固定です。
Q:症状固定後は、何をしなければなりませんか?
A:症状固定後には、「後遺障害申請」を検討します。つまり、残存してしまった痛み、しびれ、関節の可動域制限など、「後遺障害」と認められる可能性がある症状について、適正な認定を受けるための手続きが必要になります。
Q:後遺障害申請をしなかった場合、どうなりますか?
A:後遺障害として適正に認定されなければ、本来受けられる障害補償給付等が受けられない可能性があります。適正な申請と書類作成は、被害者の権利を守るうえで重要です。
Q:後遺障害申請は難しい手続きですか?
A:後遺障害認定を受けるためには、医師に適切な「後遺障害診断書」の作成を依頼したり、自身が「自己申立書」に正確な症状や日常生活上の困難点を記載したりする必要があります。これらは医療的・法的な知識が求められる場面もあり、難しさを感じる方も少なくありません。
Q:弁護士に相談するメリットはありますか?
A:弁護士に相談することで、後遺障害認定に必要な書類の確認や医師への伝え方、自己申立書の記載ポイントなど、専門的なサポートを受けることができます。これにより、認定等級を適正化し、本来得られるべき補償を確保しやすくなります。
はじめに
本稿では、「症状固定」後に労災保険を用いて後遺障害申請を行う際に押さえておくべきポイントを解説します。また、手続きの中でしばしば直面する問題や注意点、そして弁護士に相談するメリットをご紹介します。
症状固定の基本理解
「症状固定」は労災事故後の治療過程で必ず通る一里塚です。医師が「これ以上大きな改善が見込めない」と判断した時点が症状固定となります。この時点を迎えると、治療費の支給は基本的に打ち切られ、残存した症状について「後遺障害」としての評価を行う段階に移行します。
症状固定がされた後は、身体に残った痛み、しびれ、可動域制限、変形、麻痺などが、労災保険上の「後遺障害」と認められるかどうかが重要な争点となります。
後遺障害の概念と認定手続き
後遺障害とは、治療を尽くしてもなお残存する一定の障害状態を指します。労災保険では、後遺障害の程度に応じて等級が定められ、その等級に応じた障害補償給付を受けることができます。
この後遺障害の認定を受けるためには、下記のような流れを踏むことが一般的です。
- ステップ1:症状固定の確認
医師から症状固定と判断された場合、その旨を確認します。 - ステップ2:後遺障害診断書の取得
障害補償給付支給請求書(様式第10号)の裏面には、後遺障害診断書という欄があります。そこに医師から、負傷部位、残存障害の内容、可動域制限、痛み、知覚鈍麻などが詳細に記載されます。 - ステップ3:自己申立書の作成・提出
労災後遺障害申請時には、「自己申立書」を添付します。この書類には、仕事上または日常生活上で生じている不自由や困難点、具体的な症状を記載する必要があります。曖昧な表現や不足のある説明は、後遺障害認定の妨げとなり得ます。 - ステップ4:労基署や専門機関による審査
提出書類をもとに、後遺障害が認定されるかどうか、また何級に該当するかが審査されます。
障害補償給付支給請求書(後遺障害診断書)のポイント
労災の後遺障害を認定してもらうには、診断書の内容が極めて重要です。しかし、医師は治療の専門家であって、後遺障害認定の専門家ではありません。そのため、以下の点に注意しましょう。
- 具体的な症状の明記
痛みやしびれ、筋力低下、変形、可動域制限などがあれば、その内容を正確かつ客観的な形で明記してもらう必要があります。 - 測定値の記載
可動域制限や肢長差(足の長さの左右差)などは、客観的データとして測定値を記載してもらうことが望まれます。測定が行われず、後に「実は可動域が狭かった」あるいは「足の長さが違っていた」ことが判明しても、時すでに遅しという場合もあります。 - 医師との連携
医師に対しては、「後遺障害診断書に記載してほしい点」をしっかり伝えることが重要です。医師が気づいていない症状や、患者が普段感じている不自由さを正確に伝えることで、より的確な記載を得ることができます。
自己申立書の重要性と書き方のコツ
後遺障害申請では、「自己申立書」も重要な役割を果たします。この書類は、被害者本人が現状の困難や痛みを自分の言葉で説明する場です。ポイントは以下のとおりです。
- 日常生活への具体的影響の記載
たとえば、階段の昇降が難しくなった、重い荷物が持ち上げられない、長時間の立位や歩行が困難など、生活上の困りごとを丁寧に書きましょう。 - 就労・社会生活上の制約
元の仕事を続けるうえで不便を感じている点、再就職が困難になった理由など、社会生活上の影響も明示します。 - 数字や客観的記述を用いる
単に「痛い」と書くより、「10分立つと強い痛みが出る」「2kg以上の物を持ち上げると腕が痺れる」といった具体的な記述が望まれます。
後遺障害診断書作成時の注意点と医師との連携方法
医師に後遺障害診断書を依頼する際は、一方的に任せるのではなく、患者側から必要な情報を提供し、求めることが重要です。
- コミュニケーション重視
診察時に、自分がどのような場面で苦痛や制限を感じているかを明確に伝えましょう。 - 事前準備
メモを用意し、普段の生活で困っている点を整理して伝えると、医師も書類作成時に必要な情報を把握しやすくなります。 - 測定依頼
可動域検査や肢長差測定、筋力測定など、必要な測定を依頼することも大切です。こうした客観的データは後遺障害認定に有利に働きます。
労災における後遺障害等級と評価基準の概要
後遺障害は、損傷した部位や機能障害の程度に応じて細かく等級が定められています。例えば、関節の可動域がどの程度制限されているか、手足に麻痺や痛みが残っているか、視力や聴力が低下しているか、精神的障害が残っているかなど、多角的な観点から等級が判断されます。
正確な等級判定には、過去の判定基準や判例、専門的知見が必要な場合もあります。
弁護士に相談するメリット
後遺障害申請の過程で弁護士に相談することには、多くのメリットがあります。
- 専門知識による的確なアドバイス
弁護士は法律的観点から、後遺障害認定基準や必要書類の整備方法を助言できます。 - 医師との橋渡し役
医師へどのように必要事項を伝えるか、どのような測定を依頼すべきか、具体的な指針を得られます。 - 書類の精査・修正
自己申立書や診断書の記載内容について、法的な観点から不足点を指摘し、より適正な等級認定を得るためのアドバイスを行います。 - 見通しの説明と戦略立案
後遺障害等級を得ることで、将来的な給付や補償がどの程度期待できるか、見通しを明示します。 - 異議申立て・紛争対応
不適正な認定結果が出た場合には、異議申立てや紛争処理にも対応可能です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所は、労働災害に関する豊富な知識と経験を有しており、後遺障害申請においてもしっかりとサポートいたします。
よくあるトラブル例と回避策
後遺障害申請を巡るトラブルは、しばしば以下のような形で発生します。
- トラブル例1:医師が必要な記載を怠る
対策:診断書作成前に、必要な測定や記載項目をリストアップして医師に伝え、記入漏れを防ぎます。 - トラブル例2:自己申立書が曖昧で認定が下りない
対策:日常生活での具体的困難を整理し、数値や具体例を用いて説明します。必要に応じて弁護士に確認してもらうことで、書類の質を向上させます。 - トラブル例3:等級が不適正で不服がある
対策:弁護士への相談を検討します。異議申立て手続きなど法的手段を活用することで、より適正な認定を目指します。
まとめ
本稿では、労災事故後、症状固定を迎え、後遺障害申請を行うまでの流れや注意点を、「弁護士法人長瀬総合法律事務所」がわかりやすく整理しました。症状固定後にやるべきことは、医師への後遺障害診断書作成依頼、自己申立書の記載、そして労災保険による審査という一連のプロセスです。
この過程で、不十分な記載や医師との意思疎通不足によって、本来得られるべき補償が受けられなくなることもあります。重要なのは、正確かつ具体的な情報提供と、適切なサポートを受けることです。弁護士に相談することで、書類の精査、医師とのコミュニケーションのとり方、異議申立てを含む法的対応など、幅広いサポートを得られます。
症状固定という節目は、被害者にとって次なるステップへの入口です。正しい知識と準備をもって臨めば、後遺障害認定の手続きは、決して乗り越えられない壁ではありません。
症状固定後に後遺障害申請をする際は、以下のポイントを押さえてください。
- 症状固定後は、痛みや可動域制限などが残っていれば後遺障害申請を検討する。
- 後遺障害診断書は、医師に必要事項を伝え、的確な記載を促す。
- 自己申立書では、日常生活上の具体的な不自由や困難を明確に記す。
- 必要に応じて、弁護士に相談し、書類の精査や法的戦略立案などのサポートを受ける。
- 不適正な等級認定が下りた場合は、異議申立てなど法的手段を検討する。
これらの点を意識して行動することで、後遺障害申請における不安やトラブルを軽減し、より適正な補償を得られる可能性が高まります。
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