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労災認定の基準とよくある疑問

はじめに

「これは労災になりますか?」――仕事中や通勤途中で起きたアクシデントに見舞われたとき、多くの人がこの疑問を抱きます。確かに、業務災害と通勤災害という大まかなカテゴリーはあるものの、「実際のところどの程度業務と関係があれば労災と認められるのか」は判断が難しいところです。

会社や労働基準監督署が「それは業務上ではない」「通勤ルートから逸脱している」と主張して認定を拒否するケースもありますし、過労や精神疾患など、見えにくい形での労災も増えています。

本稿では、労災認定の基本的な基準や、よくある「認められないケース」、そして「どういう根拠があれば認められるのか」などを中心に解説します。「自分の状況が当てはまるのか分からない」という方が判断材料のガイドとしてお役立てください。

Q&A

業務災害として認められるためのポイントは何ですか?

「業務遂行性(会社の支配下にあったか)」と「業務起因性(業務内容が原因かどうか)」が認められるかどうかが焦点です。勤務時間内であっても私的な行動をしていた場合などは認定が難しくなる場合があります。

通勤災害と認定されるための条件は?

住居と就業場所の往復、就業場所同士の移動が「合理的な経路・方法」で行われている場合です。大幅な寄り道や私的な目的での逸脱があると「通勤災害」にならない可能性が高まります。

過労やうつ病などの精神疾患は労災認定されにくい?

過労やハラスメントによる精神疾患も、適切な証拠(残業時間の記録、医師の診断、ハラスメントの事実など)があれば労災認定される可能性があります。厚生労働省は「精神障害の労災認定基準」を示しており、それに基づいて審査が行われます。

どんなケースで「認められない」と判断されやすいですか?

仕事と無関係な私的な行動中のケガ、通勤経路から大きく逸脱した寄り道、または自己の重大な過失(酒酔い運転など)によって起きた事故などは、労災として認められにくい傾向があります。

認定されなかった場合、もう諦めるしかない?

労働基準監督署の不支給決定に不服がある場合、「審査請求」や「再審査請求」で争うことができます。それでも納得いかない場合、行政訴訟へ進む道もあります。専門家の力を借りれば、認定が覆る事例もあるため、直ちにあきらめることはありません。

解説

業務災害認定の基準

業務遂行性

「会社の指揮監督下にあったか」「労働者として業務に従事していたか」を問う要件です。

  • 勤務時間内・職場内で仕事をしていた最中に起きたケガや病気は認められやすい。
  • 休憩時間や休憩室での私的行為の場合は、業務とは離れていると判断されることもある。
  • 出張中、研修中なども業務上の指示が及ぶ範囲内なら業務遂行性が認められる可能性が高い。
業務起因性

「ケガや病気の原因が業務内容や業務環境にあるかどうか」を問う要件です。

  • 機械操作中の事故、建設現場での転落などは分かりやすい業務起因性の例。
  • 過労による脳・心臓疾患やうつ病などは、長時間労働や強いストレスなどを立証する必要がある。
  • 業務と無関係な原因(例えば運動不足や持病)の影響が大きい場合は認定が難しくなることも。

通勤災害認定の基準

通勤経路と合理性

通勤災害は「住居と就業の場所との往復」「就業の場所相互の往復」「業務上やむを得ない移動」などが合理的なルートで行われている場合に限り認定されます。

  • 通常想定される最短・最適ルートであることが原則。
  • 日常生活上やむを得ない行為(保育園への送迎、コンビニでの短時間買い物など)は許容される可能性がある。
  • 大幅な寄り道(飲食店での長時間滞在や観光など)があると通勤災害とは認められない場合が多い。
逸脱・中断の判断

労災保険法では「逸脱・中断からの復帰」が明確に規定されています。つまり、合理的な通勤経路から外れたあと、再び通常の通勤ルートに復帰したとしても、その逸脱部分は通勤とはみなされません。

  • 例:仕事帰りに大きく遠回りして遊園地に行き、その帰りに事故に遭った → 通勤災害にならない。
  • 例:保育園で子どもをピックアップするため少し寄り道 → 日常生活上やむを得ない行為で、すぐに本来のルートに復帰したなら認められる可能性あり。

過労・精神疾患の労災認定

長時間労働と脳・心臓疾患

過労死ラインとされる発症前1か月間に100時間超の時間外労働、または発症前2~6か月間に月80時間超の時間外労働といった基準を超える場合、過労による脳出血・心筋梗塞などが業務起因性を疑われやすくなります。
医師の診断や勤怠記録などの客観的証拠が鍵となります。

精神障害の労災認定

厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を公表しており、下記などの要素を総合的に判断しています。

  • 発病直前の強い心理的負荷(パワハラ、いじめ、重大な事故体験など)
  • 長時間労働や極度のノルマ
  • 発症時期との因果関係

うつ病や適応障害などでも、業務上の強いストレスが原因とされれば労災認定が行われます。

「認められない」典型事例

私的行為中の事故

勤務時間中でも個人的な用事(自分の車でドライブ、私的買い物など)をしていたときの事故は、業務災害から外れる可能性が高い。休憩時間中に外出して起きた事故も同様です。

  • 著しい過失
    酒気帯び運転や法令違反の行為(信号無視など)により事故が発生した場合、自らの重過失が大きいとして、労災給付の一部制限などもある。
  • 逸脱した通勤
    上記の「通勤災害認定の基準」で述べた通り、大幅な寄り道や遊興目的での中断などは、「通勤」とみなされない。かといって、少しの買い物や保育園寄り道など通常の生活行為は認められることもあり、線引きは事例ごとに判断される。

認定を受けるためのポイントと対処法

  • 事故当時の状況を正確に記録
    日時、場所、どのように発生したか、誰が目撃したかなど。写真や目撃者の連絡先を押さえておくと有利。
  • 勤務実態・通勤経路の客観的証拠
    ICカード利用履歴、タイムカード、残業命令書、メール履歴などが重要。会社とトラブルになる場合は、証拠を早期に確保。
  • 医師の協力
    ケガや病気が仕事と関係ある旨を診断書に明記してもらう、休業の必要性を証明してもらうなど。
  • 会社の非協力であってもあきらめない
    会社が「労災じゃない」と言い張っても、本人が直接労働基準監督署に申請可能。
  • 不服申立の活用
    不支給決定が出ても「審査請求」「再審査請求」で争える。専門家(弁護士・社労士)に相談を。

弁護士に相談するメリット

  1. 認定基準への的確な理解
    弁護士は労災保険法や認定基準、判例に精通しており、被災者の状況が「業務災害」か「通勤災害」かの初期判断をサポートし、必要な証拠収集のポイントを示してくれます。
  2. 会社との交渉や書類作成を代行
    会社が協力しない場合、弁護士が代理人となって交渉し、書類の穴埋めを行うことが可能。被災者が直接会社と対立するリスクを抑えられます。
  3. 不支給決定への異議申立
    労働基準監督署が「認められない」と判断しても、審査請求や再審査請求で争えます。その際、弁護士が追加証拠の収集や主張の整理を行い、認定を勝ち取る事例があります。
  4. 労災以外の民事賠償請求にも対応
    労災保険給付だけでは十分補償できない損害(慰謝料など)を会社に求める場合、弁護士が安全配慮義務違反を主張して示談交渉や裁判で適切な賠償を狙います。
  5. 精神的負担・時間の節約
    事故後は治療や休業で心身ともに大変なとき。弁護士に任せれば事務作業の大半を代行してもらえ、被災者が療養に集中しやすい環境を得られます。

まとめ

労災認定の基準は、「業務遂行性」「業務起因性」や「合理的な通勤経路での災害」など、いくつかの要件を総合的に判断して下されます。

そのため、単に「勤務中の事故だからOK」というわけでもなく、逆に「休憩時間だったから絶対NG」というわけでもありません。具体的な事実関係がどうだったか、会社や監督署にどう説明していくか、証拠をどれだけ集められるかが大きく影響します。

過労死や精神疾患による労災は近年認定件数が増えており、労働者が受けられる救済の幅が広がっている一方で、会社側が「本人の問題」と片づけようとする事例もあります。認定がスムーズにいかないときは、労災に詳しい専門家に早めに相談し、適切な資料整理や対応策を練りましょう。

労働基準監督署の判断がすべてではなく、審査請求・再審査請求、さらには裁判で覆るケースもあります。あきらめずに必要な手続きを踏むことで、正当な権利を手にする可能性が十分にあるのです。

  • 本記事は2024年12月時点の法令と運用に基づいて作成しています。個別案件では事実関係によって結果が異なる場合もあるため、最新の情報や専門家の意見を取り入れるようにしてください。

解説動画のご紹介

労働災害でお悩みの方に向けて、労働災害に関して解説した動画をYoutubeチャンネルで公開しています。
「通勤災害で認められるパターンは?」など具体的な事例を交えつつ動画で解説していますので、ぜひご覧いただき、チャンネル登録もあわせてご検討いただけると幸いです。

【労働災害の動画のプレイリストはこちら】

この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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