過労死・過労自殺で認定される労災給付|長時間労働やハラスメントが原因で亡くなった場合の遺族補償と手続き
はじめに
日本における過労死は、長時間労働や職場のストレスなどが原因となって脳・心臓疾患で突然亡くなるケース、そして過労自殺(精神疾患を発症し、自ら命を絶つケース)の二つの形態が特に注目されています。いずれも業務による「過重負荷」や「ハラスメント」などが深く関与しているため、労災保険(労災)上は業務上の死亡として認定される余地が大きいのが特徴です。
「家族が仕事を原因に亡くなった場合、どんな補償が受けられるのか?」――これは遺族にとって切実な問いです。実際、過労死や過労自殺が労災保険で「業務上の死亡」と認定されれば、遺族補償給付(年金または一時金)や葬祭料など、複数の給付が支給されることになります。さらに、会社の安全配慮義務違反が疑われれば、民事裁判で損害賠償を得ることも可能です。
本稿では、過労死・過労自殺で労災認定されると、どのような給付を遺族が受け取れるのか、請求手続きの流れや認定のポイントなどを解説します。突然の悲劇に見舞われた遺族が、適切な補償を確保するために役立つ情報をまとめていますので、ご参照いただければ幸いです。
Q&A
はじめに、過労死や過労自殺が労災認定された際に受け取れる給付や制度に関する代表的な疑問(Q)と回答(A)を整理します。詳細は「3 解説」で取り上げます。
Q1. 過労死や過労自殺でも遺族は労災保険で補償を受けられる?
はい。会社の業務による長時間労働やハラスメントが原因で死亡(脳・心臓疾患、精神疾患による自死)した場合、労災保険で「業務上の死亡」と認定されれば、遺族補償給付や葬祭料などが支給されます。
Q2. 具体的にどんな給付があるのでしょう?
代表的なものに、遺族補償年金や遺族補償一時金、そして葬祭料があります。遺族の状況(妻・子の有無など)によって給付額や年金日数分が変わります。
Q3. 遺族補償年金と遺族補償一時金の違いは?
原則として、死亡労災で遺族が受け取るのは遺族補償年金ですが、遺族が受給要件を満たさない場合には一時金(遺族補償一時金)が支給される仕組みです。
Q4. 遺族補償年金だけでは生活が苦しい場合は?
会社に安全配慮義務違反が認められるなら、遺族が別途損害賠償請求を行い、慰謝料や逸失利益を上乗せして受け取ることが可能です。労災保険と併用して広く救済を図れます。
Q5. 給付を受けるには、どんな書類や手続きが必要?
様式第10号(遺族補償給付支給請求書)を監督署に提出し、被災者の勤務状況や死亡状況、遺族の戸籍などを確認する資料を添付します。会社が非協力的でも遺族単独で手続き可能です。
解説
それでは、過労死・過労自殺が労災認定されるとどのような給付が遺族に支給されるのか、遺族補償給付や葬祭料の詳細、請求手続きの流れなどを解説します。
過労死・過労自殺で認定される「業務上の死亡」とは
業務起因性
- 長時間労働や強度のハラスメント、激務など過度な負荷が原因で脳・心臓疾患を発症し死亡、または精神疾患を発症して自殺した場合、監督署が業務起因性を認めると労災保険で業務上の死亡として扱われる。
- 過労死ライン(1か月100時間超、2〜6か月80時間超)を超える時間外労働、ハラスメントの証拠などが重要な証拠。
会社の非協力・否定主張
- 会社が「本人の体質」「私生活が原因」と否定しても、タイムカードやメール送信時間などで客観的に長時間残業を示せば認定されることも考えられる。
- 遺族が労災申請し、監督署が会社に事実照会を行い、必要な情報を調べる。
遺族補償給付の種類
遺族補償年金
- 労災保険法により定められた「遺族補償給付」の中心的な給付が遺族補償年金。
- 給付基礎日額をベースに、遺族の数や生計維持関係によって153日分〜245日分相当を年金化し、定期的に支給される仕組み。
- 遺族が配偶者1人だけの場合(153日分)、配偶者+子供2人の場合(223日分)、4人以上で245日分など細かい規定あり。
遺族補償一時金
- 遺族補償年金を受け取れる遺族がまったくいない場合や、法令上の要件を満たさない場合に一時金が支給される。
- 額は給付基礎日額の1000日分(2024年12月時点)など、監督署の規定による。
葬祭料
- 被災者の葬儀を行うための費用として、葬祭料が支給される。
- 原則、給付基礎日額×315日分(または最低保障額)など、一定の計算式で支給額を決定。
請求手続きの流れ
様式第10号「遺族補償給付支給請求書」
- 遺族が労災保険の遺族補償給付・葬祭料を請求するときは、様式第10号を監督署へ提出。
- 会社の記入欄があるが、非協力的でも監督署が事実調査を行ってくれるため、遺族単独で申請可能。
添付資料
- 死亡診断書または検案書
- 被災者の勤怠記録(残業状況が分かる資料)
- 医師の診断書(精神疾患の発症と業務の関連を示す)
- 遺族の戸籍謄本や収入資料(生計維持関係の証明)
監督署の審査
- 過重労働やハラスメントがあったか、死に至る経緯などを調べ、業務上の死亡と認定するか判断。
- 数か月〜1年以上かかることもあり、不支給の場合は審査請求・再審査請求で争う道がある。
会社の安全配慮義務違反と損害賠償
安全配慮義務
- 会社は、労働契約法や判例により、従業員の安全・健康を守る義務(安全配慮義務)を負う。
- 長時間労働を放置、ハラスメントを黙認するなど、安全配慮義務を怠った結果、過労死・過労自殺が起きれば、民事裁判で高額な賠償命令が出る可能性がある。
労災保険給付以上の補償
- 労災保険の遺族補償給付だけでは、慰謝料や大きな逸失利益をすべてカバーしきれない場合が多い。
- 遺族が会社に対して別途、損害賠償請求を行い、示談や裁判で多額の和解金・判決金を得る例が増えている。
実務上の注意点
会社の非協力・労災隠し
- 「業務との因果関係がない」「本人の私生活が原因」と主張し、労災認定を阻害する行為。
- 遺族が監督署に直接申請し、客観的証拠を提示することが重要。
長時間労働の証拠保全
- 勤怠記録やPCログ、メール送信時間、同僚の証言など、労働時間を示す証拠が労災認定の最大のカギ。
- 会社が隠蔽・改ざんしても、監督署が調査権限を行使し、労災隠しが発覚すれば行政処分の可能性も。
ハラスメントの立証
遺族がパワハラ・セクハラの実態を掴めていない場合も多いが、録音、メール、メモ、SNSのやり取りなどを遺族が発見・提出して認定される事例がある。
弁護士に相談するメリット
- 証拠収集と申請手続き
遺族が会社の勤怠データやハラスメントの証拠を集める際、弁護士が会社に開示を要求するなど協力し、監督署への申請をスムーズに行う。 - 不支給決定への異議申立
監督署が業務外と判断しても、弁護士が審査請求・再審査請求で追加証拠を提出し、結果を逆転させる可能性を高める。 - 会社への損害賠償請求
安全配慮義務違反が明白な場合、遺族が慰謝料や逸失利益を請求する民事裁判に弁護士が代理人となり、数千万円〜1億円超の賠償が命じられる事例もある。 - 複雑なケースの交渉戦略
派遣や請負、フリーランスなど雇用形態が複雑でも、弁護士は実態の使用従属性を調べ、業務起因性を主張する。また、長期にわたる過重労働の経緯を時系列で整理し、効果的に監督署や裁判所へ示せる。 - 企業の予防法務
企業側が弁護士に長時間労働防止策やハラスメント対策の整備を依頼し、過労死リスクと裁判リスクを未然に減らす。コンプライアンス強化により、従業員の健康と企業イメージを守る効果がある。
まとめ
過労死・過労自殺で業務上の死亡と認定されれば、労災保険の遺族補償給付(年金または一時金)や葬祭料が支給され、遺族は最低限の生活保障を受けられます。加えて、会社に安全配慮義務違反があった場合は、民事訴訟や示談交渉で高額な損害賠償を得ることも可能です。
- 長時間労働やハラスメントなどの明らかな業務上ストレスが原因の場合、労災認定される公算は高い。
- 会社が否定的でも、遺族が監督署へ客観的証拠(勤怠記録、ハラスメント録音など)を示し、強い心理的負荷を立証すれば認定に至る可能性が十分ある。
- 企業は、こうした過労死・過労自殺事件を放置すれば社会的信用を失い、遺族への高額賠償責任を負うリスクが非常に大きい。
長時間労働やハラスメントが疑われる環境で働く従業員は、自分や家族を守るために労災保険や法律の仕組みをよく理解し、万が一の際には弁護士などの専門家へ早めに相談することが重要です。適切な情報と証拠があれば、遺族補償や損害賠償を通じてしかるべき救済を得る道が開けるでしょう。
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