労働基準監督署の調査とは?面談での心構えと注意点
「調査」はあなたの敵ではありません
「労災申請をしたら、労働基準監督署から呼び出されて、取調べのように厳しく追及されるのではないか…」
労災申請をためらう方の中には、その後の「労働基準監督署(労基署)の調査」に対して、このような漠然とした怖いイメージをお持ちの方が少なくありません。
しかし、その心配は無用です。労基署の調査は、あなたを罰したり、疑ったりするために行われるのではありません。その目的は、あなたが請求した内容が事実に即しているかを客観的に確認し、国の貴重な保険料から、公正・公平に保険給付を行うための、ごく当たり前の手続きなのです。
この記事では、労災申請後に行われる労基署の調査とは具体的にどのようなものか、そして、もし「聞き取り調査(面談)」が行われることになった場合、何を聞かれ、どのように答えればよいのか、その心構えと具体的な注意点を解説します。
なぜ、そもそも調査が必要なのか?
労災保険は、事業主が納める保険料を財源として運営されている公的制度です。そのため、本当に労働災害に該当する方にのみ、適正な給付が行われなければなりません。
提出された請求書と医師の証明だけでは、災害の具体的な状況や業務との関連性が不明瞭な場合があります。例えば、本当に業務中に起きた事故なのか、通勤の途中に私的な寄り道はなかったか、といった細かい事実関係を確認するために、労基署は調査を行う権限を持っているのです。
労基署の調査には、どんな種類がある?
調査は、事案の複雑さや内容に応じて、様々な方法で行われます。
- 書類調査
提出された請求書や添付書類の内容を精査する基本の調査です。 - 追加の資料提出要求
会社やあなたに対して、タイムカード、業務日報、現場の写真などの追加資料の提出を求めることがあります。 - 実地調査(現場調査)
労基署の担当官が、災害が発生した工場や建設現場などを直接訪れて、現場の状況や機械の構造などを確認します。 - 聞き取り調査(面談)
今回のメインテーマです。労基署の事務所などで、担当官が関係者(あなた本人、会社の担当者、目撃した同僚など)から直接話を聞きます。
聞き取り調査(面談)では、何を聞かれるのか?
面談で聞かれる内容は、あなたの災害が「業務災害」か「通勤災害」か、また、どのような傷病かによって異なります。しかし、調査官が知りたいのは「その災害が、本当に労災保険の対象となる状況で発生したのか」という点に尽きます。
業務災害(怪我)の場合の想定質問
- 「災害が発生した日時と場所を、もう一度詳しく教えてください」
- 「その時、具体的にどのような作業をしていましたか?手順を説明してください」
- 「事故が起きた直接の原因は何だと思いますか?」
- 「その作業は、いつも行っている作業でしたか?普段と違う点はありましたか?」
- 「事故の瞬間を、誰か見ていた人はいますか?」
- 「事故の直後、誰に、どのように報告しましたか?」
通勤災害の場合の想定質問
- 「その日の朝、何時に家を出ましたか?会社を出たのは何時ですか?」
- 「いつも使っている通勤経路と交通手段を教えてください」
- 「事故が起きた場所は、そのいつもの経路上にありますか?」
- 「事故に遭う前に、どこかへ寄り道(逸脱・中断)はしませんでしたか?(例:スーパーでの買い物、病院への通院、友人との会食など)」
精神疾患などの場合の想定質問
- 「発症する前の、直近数ヶ月間の働き方を教えてください(1日の労働時間、残業時間、休日出勤の状況など)」
- 「どのような出来事(パワハラ、セクハラ、過大な業務要求など)が、あなたにとって強い心理的負荷となりましたか?具体的に、いつ、どこで、誰から、何を言われ、または何をされたか、思い出せる範囲で教えてください」
2020年9月の法改正により、複数の会社で働いている場合は、すべての勤務先での労働時間やストレスを総合的に評価して判断されることになりました。
面談に臨む際の5つの心構えと注意点
調査官に良い印象を与え、スムーズな認定に繋げるために、以下の5つのポイントを心掛けてください。
正直に、ありのままを話す
自分に有利になるように話を誇張したり、不利な事実を隠したりするのはやめましょう。話の辻褄が合わなくなると、あなたの話全体の信憑性が失われてしまいます。
事前に事実関係を整理しておく
人間の記憶は曖昧です。面談の日が決まったら、事故当日の出来事を時系列でメモに書き出すなど、事実関係を整理しておきましょう。準備しておくことで、調査官の質問に、慌てず、的確に答えることができます。
あいまいな回答、憶測での回答は避ける
覚えていないことや、分からないことを聞かれたら、「記憶にありません」「分かりません」と正直に答えましょう。「たぶん、こうだったと思います」といった、憶測での回答は誤解を招くもとです。
冷静に、客観的な事実を伝えることに徹する
面談は、会社の愚痴や不満を訴える場ではありません。感情的にならず、あくまで「何があったのか」という事実関係を、冷静に、客観的に伝えることに集中してください。
弁護士に同席してもらう
一人で調査官と対峙するのが不安な場合、弁護士に代理人として面談に同席してもらうことができます。弁護士が同席することで、以下のような大きなメリットがあります。
- あなたの代わりに、法的に整理された形で事実を的確に説明できる。
- 調査官からの不適切な質問や、誘導的な質問を牽制できる。
- あなたが不利益な発言をしてしまうのを防ぐことができる。
- 何より、一人ではないという安心感が、あなたの精神的な支えになる。
まとめ
労働基準監督署の調査や面談は、あなたを追い詰めるためのものではありません。むしろ、あなたの主張が正しいことを、公的な立場で確認してくれる「味方」と考えることもできます。
- 調査の目的は、公正な給付のため。
- 聞かれるのは、客観的な事実関係。
- 臨む姿勢は、正直に、冷静に。
このポイントを押さえ、事前にしっかりと準備をすれば、調査を恐れる必要は全くありません。特に、事案が複雑な場合(精神疾患など)や、会社側が事実と異なる主張をしているような場合には、専門家である弁護士のサポートが有効です。調査の日程が決まったら、私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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