治療費の不安を解消!療養(補償)給付の概要と請求方法
はじめに
業務中や通勤途中の予期せぬ事故により負傷した場合、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき、治療費の全額が国から補償されます。
通常の健康保険診療では「3割負担」が原則ですが、労働災害においては、業務遂行性・起因性が認められる限り、労働者に経済的負担を負わせるべきではないという法の趣旨から、自己負担は原則として発生しません。
本稿では、この「療養(補償)給付」の仕組み、対象範囲、および複雑な請求手続きについて解説します。
2つの給付方式:「現物給付」と「現金給付」の法的構造
受診する医療機関の属性によって、適用される条文と手続きが異なります(労災保険法第13条第1項、第2項)。
| 項目 | ① 療養の給付(現物給付) | ② 療養の費用の支給(現金給付) |
|---|---|---|
| 法的性質 | 第13条第1項に基づく現物の提供。医療サービスそのものが給付される。 | 第13条第2項に基づく費用の償還。一旦支払った費用が後に補填される。 |
| 対象機関 | 労災保険指定医療機関 | 指定外の医療機関、または緊急避難的な受診 |
| 患者負担 | なし(0円)。窓口での支払いは一切不要。 | 一時的に全額(10割)自己負担。後日、国に請求して還付。 |
| 提出書類 | 様式第5号(業務災害) 様式第16号の3(通勤災害) | 様式第7号(業務災害) 様式第16号の5(通勤災害)+領収書原本 |
可能な限り「労災指定医療機関」を受診することを推奨します。一時的とはいえ高額な医療費を立て替える負担を回避でき、請求手続きも簡素化されるからです。指定医療機関か否かは、厚生労働省の検索サイト等で確認可能です。
給付の対象範囲
給付の範囲は、「政府が必要と認めるものに限る」と規定されています(法第13条第2項)。具体的には、以下の項目が含まれます。
- 診察・薬剤・処置・手術: 診断からリハビリテーションまで、医学的に必要と認められる一切の医療行為。
- 入院料: 入院基本料に加え、食事療養費(標準負担額)も支給対象です。
- 差額ベッド代の取り扱い: 個室等の利用料(差額ベッド代)は、「医師が治療上必要と認めた場合」(重篤な症状や免疫不全等)や「病院側の都合で個室しかなかった場合」を除き、原則として自己負担となります。患者自身の希望で個室に入った場合は給付対象外です。
- 在宅看護料: 医師が必要と認めた場合の在宅看護費用等は対象となり得ます。
- 移送費(通院費): 原則は自己負担ですが、以下の要件を満たす場合に限り、例外的に支給されます(施行規則第11条)。
- 居住地または勤務地から、原則として片道2km以上の通院であって、同一市町村内の適切な医療機関へ通院する場合。
- 傷病の状態により、公共交通機関の利用が著しく困難な場合(タクシー利用等が認められます)。
「治癒(症状固定)」
療養(補償)給付は、傷病が「治癒」するまで継続されます。
ここでいう「治癒」とは、医学的な完治だけでなく、「症状固定」の状態を含みます。
症状固定とは
傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態(昭和50年基発第535号)。
この状態に至ったと医師が判断した時点で、治療費の支給は終了(打ち切り)となります。仮に痛みや機能障害が残っていたとしても、それは治療の対象ではなく、後述する「障害(補償)給付」による損害填補の対象へと移行します。この判断時期は、将来の補償体系が変わる重要な分岐点です。
権利の消滅:時効について
療養の費用の支給を受ける権利は、療養の費用を支払った日の翌日から2年を経過すると、時効により消滅します。領収書をため込まず、速やかに請求を行うことが大切です。
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