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休業中の生活を支える休業(補償)給付|支給要件と計算方法を解説

はじめに

労働災害による怪我や病気の治療。その間、あなたは働くことができず、会社からの給料は止まってしまいます。「治療費は労災保険でなんとかなっても、毎月の家賃や食費、家族を養うためのお金はどうすればいいのか…」療養中の労働者が直面する、最も深刻な不安です。

その、休業によって失われる収入を補い、あなたの療養中の生活を経済的に支えるための生命線となる制度。それが、労災保険の「休業(補償)給付」です。

この記事を読めば、あなたがこの重要な給付を受け取るための具体的な条件、実際にいくら受け取れるのかという金額の計算方法、そして、いつからいつまで貰い続けることができるのか、といった休業(補償)給付に関する全ての疑問が解消されます。正しい知識で、経済的な不安を安心に変えましょう。

あなたは対象? 3つの支給要件

休業(補償)給付を受け取るための「3つの支給要件」

休業(補償)給付は、仕事を休めば誰でも自動的に貰えるわけではありません。以下の3つの条件をすべて満たしている必要があります。

① 業務上の傷病の「療養のため」であること

大前提として、その休業が、労災と認定された業務災害または通勤災害による傷病を治療するためであることが必要です。労災とは関係のない私的な病気や怪我での休業は対象外です。

② 「労働することができない」(労働不能)こと

これは、単に「働いていない」ということではなく、「客観的に見て、働くことができない状態」であることを意味します。基本的には、治療を担当している医師が「就労不能」であると判断・証明することが必要です。たとえ軽作業なら可能であっても、元の仕事に復帰できなければ「労働不能」と認められる場合があります。

③ 「賃金を受けていない」こと

休業している日について、会社から給料が支払われていないことが必要です。もし、休業期間中に会社が給料の60%以上を支払っている場合は、休業(補償)給付は支給されません。

なお、ご自身の有給休暇を使って休んだ日は、「賃金を受けている日」とみなされるため、その日については休業(補償)給付の対象外となります。

支給額はいくら?

給料の「約8割」が補償される仕組み

では、実際にいくら受け取れるのでしょうか。支給額は、以下の2階建ての合計額となります。

1日の支給額 =(給付基礎日額 × 60%)+(休業特別支給金 × 20%)

つまり、合計で「給付基礎日額の80%」が、あなたが1日あたりに受け取る金額の目安となります。

「給付基礎日額」とは?

この給付額の計算の根幹となるのが「給付基礎日額」です。

これは、簡単に言うと「あなたの1日あたりの平均賃金」のことです。原則として、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(カレンダー上の日数)で割って計算されます。

この「賃金総額」には、基本給だけでなく、残業代や各種手当(通勤手当、住宅手当など)も含まれます。ただし、ボーナスなど3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、原則として含まれません。

【具体例】計算シミュレーション

ケース:月給30万円(基本給25万+残業等5万)のAさん

  1. 直前3ヶ月間の賃金総額を計算
    30万円 × 3ヶ月 = 90万円
  2. 直前3ヶ月間の総日数(暦日数)を計算
    例:3月(31日)+4月(30日)+5月(31日) = 92日
  3. 給付基礎日額を計算
    900,000円 ÷ 92日 = 9,782.6円(1円未満は切り上げ)
  4. 1日あたりの休業(補償)給付額を計算
    9,782.6円 × 80% = 7,826円

この場合、Aさんは1日あたり7,826円を、休業した日数分だけ受け取れることになります。

いつからいつまで貰える?

支給期間について

開始日:休業4日目からスタート

休業した最初の3日間は「待機期間」と呼ばれ、労災保険からの休業(補償)給付は支給されません。実際に支給が開始されるのは、休業を開始した日から数えて4日目からとなります。

なお、この待機期間の3日間について、業務災害の場合は、事業主(会社)が労働基準法に基づき、平均賃金の60%を補償する義務を負っています(通勤災害の場合は、この義務はありません)。

終了日:「治癒(症状固定)」するまで

休業(補償)給付は、療養が必要で、かつ労働不能である限り、期間の制限なく受け続けることができます。そして、その傷病が「治癒(症状固定)」したと医師に判断された時点で、支給は終了となります。

療養が長引いた場合:「傷病(補償)年金」への移行

もし、療養を開始してから1年6ヶ月が経過しても傷病が治癒(症状固定)せず、その障害の程度が非常に重い場合(傷病等級第1級~第3級に該当する場合)、休業(補償)給付の支給は打ち切られ、より手厚く安定的な「傷病(補償)年金」という制度に切り替わります。

休業(補償)給付に関するQ&A

Q1. パートやアルバイトでも、もちろん貰えますか?

はい、もちろんです。雇用形態や労働時間の長短にかかわらず、上記3つの支給要件を満たせば、正社員と全く同じように支給されます。

Q2. 会社を退職したら、給付は打ち切られてしまいますか?

いいえ、打ち切られません。退職後であっても、3つの支給要件を満たしている限り、治癒(症状固定)するまで給付を受け続けることができます。これは労働者個人の権利です。

まとめ

療養中の生活の基盤を守る、頼れる制度です

休業(補償)給付は、あなたが安心して治療に専念するための、経済的な基盤を守る、非常に重要で頼りになる制度です。

  • 3つの支給要件(①療養のため、②労働不能、③賃金なし)を満たせば支給される。
  • 給料の約8割が、休業4日目から治癒するまで補償される。

この制度の根幹となる「給付基礎日額」の計算は、会社が行うのが一般的ですが、万が一、残業代が意図的に除外されるなど、不当に低く計算されてしまうと、あなたが受け取る給付額も少なくなってしまいます。

もし、会社側の対応に不審な点がある、手続きに協力してくれないなどのトラブルがあれば、それはあなたの生活に直結する重大な問題です。お一人で悩まず、速やかに私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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