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給付基礎日額とは?休業補償などの給付額を決める基準と分かりやすく解説

はじめに

「休業補償は、給付基礎日額の8割です」
「後遺障害の年金は、給付基礎日額の〇日分です」

労災保険の給付金の話になると、必ずと言っていいほど登場する、この「給付基礎日額(きゅうふきそにちがく)」というキーワード。あなたは、この言葉の正確な意味をご存知でしょうか?

この給付基礎日額が、高く算定されるか、それとも低く算定されるかで、あなたが受け取る休業補償、後遺障害の年金や一時金、そして万が一の際の遺族補償の額まで、すべてが大きく変わってしまいます。まさに、労災保険給付における、最も重要な「ものさし」となる数字なのです。

本稿では、あなたの補償額の根幹をなす、この「給付基礎日額」とは一体何なのか、どのように計算されるのか、その仕組みを解説していきます。

給付基礎日額とは?

「あなたの1日あたりの平均賃金」

「給付基礎日額」とは、法律の言葉で言うと「労働基準法第12条に規定する平均賃金に相当する額」とされています。これを、もっと分かりやすく言うならば、「労災事故が起きる前の、あなたの平均的な1日あたりの賃金」のことです。

労災保険は、この「1日あたりの平均賃金(=給付基礎日額)」を基準にして、様々な給付金の額を計算します。

例えば、休業補償であれば「給付基礎日額の80%」、後遺障害一時金であれば「給付基礎日額の〇日分」といった具合です。したがって、この金額が正確に算定されているかどうかを確認することは、あなたの正当な権利を守る上で重要になります。

給付基礎日額の【原則的】な計算方法

給付基礎日額は、原則として以下の計算式によって算出されます。

給付基礎日額 = 事故発生日(※)の直前3ヶ月間に支払われた賃金の総額 ÷ その3ヶ月間の総日数(カレンダー上の日数)

(※)正確には「算定事由発生日」といい、事故による怪我の場合は事故発生日、職業病などの場合は診断によって疾病が確定した日となります。

この計算式を、具体的なステップに分けて見ていきましょう。

ステップ1:「算定事由発生日」を確認する

まずは基準となる日、つまり事故が起きた日などを正確に特定します。

ステップ2:「直前3ヶ月間」の期間を特定する

算定事由発生日の前日から、過去に遡って3ヶ月間が計算期間となります。ただし、会社に賃金の締切日がある場合は、その直前の賃金締切日から遡って3ヶ月間となります。

(例:毎月末日が締切日で、6月28日に事故が起きた場合 → 直前の締切日は5月31日 → 計算期間は3月1日~5月31日)

ステップ3:その期間の「賃金総額」を計算する

ステップ2で特定した3ヶ月間に、あなたに支払われた賃金の合計額を計算します。どの手当が含まれるかなど、詳細は次項で詳しく解説します。

ステップ4:その期間の「総日数(暦日数)」を確認する

ステップ2で特定した3ヶ月間の、カレンダー上の日数を合計します。実際に働いた日数(実労働日数)ではないことに注意してください。

(例:3月・4月・5月の場合 → 31日+30日+31日=92日)

ステップ5:割り算を実行!

最後に、「ステップ3の賃金総額」を「ステップ4の総日数」で割ります。ここで算出された金額が、あなたの給付基礎日額となります。(1円未満の端数は切り上げ)

「賃金総額」に含まれるもの・含まれないもの

給付基礎日額を正しく計算する上で、最も重要なのが、この「賃金総額」に何が含まれるのかを正確に把握することです。

賃金総額に「含まれる」もの

労働の対価として支払われるものは、名称を問わず、原則としてすべて含まれます。

  • 基本給、本給
  • 時間外手当(残業代)、深夜手当、休日出勤手当
  • 職務手当、役付手当
  • 家族手当、住宅手当
  • 通勤手当(非課税分も含む)
  • 皆勤手当、精勤手当
  • その他、就業規則や労働協約で支給が定められているすべての手当

賃金総額に「含まれない」もの

一方で、以下のようなものは賃金総額から除外されます。

  • ボーナス(賞与):ただし、「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」と定義されているため、もし年4回支給される賞与など、3ヶ月以内の間隔で支払われるものであれば、賃金総額に含まれます。
  • 臨時に支払われる賃金:結婚祝金、見舞金、退職金など。
  • 現物給与:法令や労働協約で定められていない、会社からの現物支給(例:社宅の提供など)。

具体例

給付基礎日額の計算シミュレーション

<ケース:Aさんの場合>

  • 賃金締切日:毎月末日
  • 事故発生日:8月20日
  • 直前3ヶ月の給与
    • 5月分給与(基本給22万+残業代5万+住宅手当2万)= 29万円
    • 6月分給与(基本給22万+残業代4万+住宅手当2万)= 28万円
    • 7月分給与(基本給22万+残業代6万+住宅手当2万)= 30万円
  1. 計算期間:直前の締切日は7月31日なので、5月1日~7月31日
  2. 賃金総額:29万円 + 28万円 + 30万円 = 87万円
  3. 総日数:31日(5月) + 30日(6月) + 31日(7月) = 92日
  4. 給付基礎日額の計算:870,000円 ÷ 92日 = 9,456.52… → 9,457円

Aさんの給付基礎日額は9,457円となります。

誰が計算する?もし間違っていたら?

この給付基礎日額の計算は、原則として、休業(補償)給付の請求書(様式第8号)などで、あなたの勤務先の会社が計算し、証明することになっています。そして、その内容を労働基準監督署が確認し、最終的な額が決定されます。

しかし、会社側が意図的に、あるいは知識不足から、残業代を含めずに計算するなど、低い額で証明してくるケースも残念ながら存在します。

もし、会社から提示された給付基礎日額の額に疑問を感じた場合は、決してそのままにせず、ご自身の給与明細などを持参の上、労働基準監督署や、私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。給付基礎日額が100円違うだけで、生涯に受け取る補償額が何万円、何十万円と変わってくる可能性もある、重要な問題です。

まとめ

給付基礎日額は、あなたが受け取るすべての労災保険給付の金額を決める、まさに「ものさし」となる、極めて重要な数字です。

  • 給付基礎日額 = 直前3ヶ月の賃金総額 ÷ その期間の暦日数
  • 賃金総額には、残業代や各種手当も含まれる。

この基本を理解することで、会社が算定した金額が妥当なものか、あなた自身でチェックする視点を持つことができます。あなたの正当な権利を守るためにも、もし少しでも「おかしいな?」と感じたら、専門家に相談するという選択肢をご検討ください。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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