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【給付の種類別】あなたがもらえる労災保険給付金の詳細解説 葬儀費用を補償する葬祭料(葬祭給付)の金額と請求方法

はじめに

労働災害によって最愛のご家族を亡くされた悲しみは、計り知れないものです。突然の出来事に、精神的なショックを受けながらも、ご遺族は葬儀の手配や今後の生活に向けた手続きなど、多くの現実的な対応を迫られることになります。

今回は、そのような状況下でご遺族の経済的な負担を少しでも軽減するための制度である「葬祭料(葬祭給付)」について解説します。

遺族(補償)給付とは異なり、この給付は「葬儀を行うための費用」を補填する目的で支払われるものです。誰が請求できるのか、いくら受け取れるのか、どのような費用が対象になるのかなど、実務的なポイントを整理しました。

労災保険の「葬祭料(葬祭給付)」とは

まず、この制度の基本的な概要と、名称の違いについて確認しましょう。

制度の目的

労働者が業務上、または通勤中の事故によって死亡した場合、葬儀(お葬式)を行う遺族や関係者に対して、国から支給される給付金です。

これは、残された家族の生活費を補償する「遺族(補償)給付」とは別枠で、あくまで「葬儀にかかる費用」を補填するために支払われます。

「葬祭料」と「葬祭給付」の違い

事故の原因が「業務中」か「通勤中」かによって、名称と適用される条文が異なりますが、給付される金額や内容は基本的に同じです。

  • 業務災害の場合: 葬祭料(そうさいりょう)
  • 通勤災害の場合: 葬祭給付(そうさいきゅうふ)

※本記事では、便宜上これらをまとめて「葬祭料」と呼ぶことがあります。

誰が受け取れるのか?(受給権者)

葬祭料の最大の特徴は、「必ずしも相続人(配偶者や子など)が受け取るとは限らない」という点です。

原則は「葬祭を行った者」

法律上、葬祭料を受け取る権利があるのは、「実際に葬祭(葬儀)を行った者」と定められています。

一般的には、喪主(もしゅ)を務めたご遺族がこれに該当します。

遺族以外が葬儀を行った場合

身寄りがなく、友人が葬儀を行った場合や、会社が主体となって葬儀を行った場合(社葬など)はどうなるのでしょうか。

この場合も、実際に費用を負担し葬儀を執り行った者が請求権を持ちます。ただし、社葬などで会社と遺族が費用を分担した場合は、実務上の調整が必要になることがあります(詳細は後述のFAQで解説します)。

葬儀を行わなかった場合

事情により葬儀を行わなかった場合でも、死体の検案や運搬などに費用がかかった場合は、その費用を負担した者(遺族など)が請求することができます。

いくらもらえる? 葬祭料の金額と計算方法

葬祭料の金額は一律ではありません。亡くなった方の生前の賃金(給付基礎日額)を基準に計算されます。

以下の2つの計算式で算出した額のうち、高い方が支給されます。

計算式A:【31万5,000円 + 給付基礎日額の30日分】

基本となる固定額に、給与の約1ヶ月分を足した金額です。

※31万5,000円という金額は法令により定められていますが、経済情勢により改定される場合があります。

計算式B:【給付基礎日額の60日分】

単純に給与の約2ヶ月分とする計算です。

【シミュレーション】

「給付基礎日額」とは、原則として事故発生直前の3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の日数で割った1日あたりの金額です。

ケース①:給付基礎日額が 10,000円 の場合
  • 式A: 315,000円 +(10,000円 × 30日)= 61万5,000円
  • 式B: 10,000円 × 60日 = 600,000円
  • 結果: 高い方の 61万5,000円 が支給されます。
ケース②:給付基礎日額が 20,000円 の場合
  • 式A: 315,000円 +(20,000円 × 30日)= 91万5,000円
  • 式B: 20,000円 × 60日 = 120万円
  • 結果: 高い方の 120万円 が支給されます。
結論として

給料が比較的低い方の場合は「式A」が適用されやすく、給料が高い方の場合は「式B」が適用されやすくなります。いずれにせよ、最低でも給料の60日分程度、あるいはそれ以上の金額が補償される仕組みになっています。

請求に必要な書類と手続きの流れ

葬祭料を受け取るためには、労働基準監督署への申請が必要です。会社が代行してくれることもありますが、ご遺族自身で手続きを行うケースも多いため、流れを把握しておきましょう。

提出先

被災された方が所属していた事業場(会社)を管轄する労働基準監督署です。

必要な書類

以下の書類を揃えて提出します。

  1. 葬祭料請求書(様式第16号)または 葬祭給付請求書(様式第16号の10)
    労働基準監督署で入手するか、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
  2. 死亡診断書、死体検案書、または検視調書の写し
    死亡の事実と原因を証明するために必要です。
  3. 葬儀を行ったことを証明する書類
    1.  葬儀社からの領収書、会葬礼状などです。
    2. 重要:請求者(喪主)の氏名が記載されている必要があります。

※すでに「遺族(補償)給付」の請求を行っており、そこで死亡の事実が証明されている場合は、死亡診断書等の添付を省略できることがあります。

事業主の証明

請求書には、事業主(会社)による証明欄があります。

「いつ、どのような事故で死亡したか」や「平均賃金」について会社に証明印をもらう必要があります。もし会社が協力的でない場合や、すでに倒産している場合は、その旨を労働基準監督署に相談すれば、証明なしで受付される場合もあります。

注意! 葬祭料の時効は「2年」

労災保険の手続きにおいて、最も注意しなければならないのが「時効」です。

遺族(補償)年金の時効は「5年」ですが、葬祭料(葬祭給付)の時効は「2年」と短く設定されています。

時効の起算日: 葬儀を行った日の翌日

葬儀が終わってから2年以内に請求しないと、権利が消滅してしまいます。

ご家族を亡くされた混乱の中では、あっという間に時間が過ぎてしまうものです。また、会社との損害賠償交渉や刑事事件の対応などに追われ、労災申請が後回しになってしまうケースも見受けられます。

葬祭料の請求は、遺族補償の請求と同時に、あるいは先行して速やかに行うことを強くお勧めします。

よくある質問(FAQ)

葬祭料に関して、ご遺族の方からよくいただく質問をまとめました。

Q1. どんな費用が「葬儀費用」として認められますか?

葬祭料は定額(計算式で決まる額)で支払われるため、「実際にかかった費用の領収書」と「支給額」を細かく照らし合わせるわけではありません。

豪華な葬儀で300万円かかったとしても、支給額の上限(計算結果)までしか支払われません。足りない分は自己負担となります。

Q2. 会社葬(社葬)の場合、遺族は請求できますか?

社葬であっても、会社と遺族で費用を分担した場合は、遺族が負担した範囲内で遺族が請求できるとするのが一般的です。

もし会社が全額を負担し、会社名義で葬儀を行った場合は、会社が「葬祭を行った者」として請求権者となります。

Q3. 加害者がいる交通事故(第三者行為災害)の場合はどうなりますか?

相手方の自賠責保険からも葬儀費用の支払いが受けられる場合があります(自賠責保険では原則として上限60万円、立証により最大100万円まで)。

労災保険と自賠責保険の両方から二重に満額を受け取ることはできません(支給調整が行われます)。どちらを先に使うべきかは、葬儀費用以外の損害賠償額も含めたトータルの計算が必要になるため、弁護士への相談をお勧めします。

Q4. 遺体が見つからない場合(行方不明)はどうなりますか?

事故発生から3ヶ月間生死が分からない場合、または水難・火災等で死亡したと推定される場合は、死亡とみなして労災認定が行われます。葬儀を行えない場合でも、ご遺族が葬祭料の請求手続きを行うことは可能です。

会社への損害賠償請求と葬儀費用

労災保険の葬祭料だけでは、実際の葬儀費用(さらに墓地購入費や仏壇購入費などを含めた総額)を賄いきれないことも少なくありません。

もし、その労働災害が会社の安全配慮義務違反(安全対策の怠慢など)によって引き起こされたものであれば、労災保険とは別に、会社に対して損害賠償請求を行うことができます。

損害賠償請求においては、労災保険ではカバーされない以下のような項目も請求可能です。

  • 葬儀費用の不足分: 裁判基準では、150万円程度(場合によってはそれ以上)の葬儀関係費用が損害として認められる傾向にあります。労災保険の葬祭料で賄えなかった分を会社に請求できる可能性があります。
  • 死亡慰謝料: 遺族の精神的苦痛に対する賠償金です(2,000万円〜2,800万円程度)。これは労災保険にはない項目です。
  • 逸失利益: 生きていれば得られたはずの将来の収入です。

ただし、会社への請求を行う場合、すでに受け取った葬祭料の金額は、損害賠償額から控除(差し引き)されることになります(損益相殺)。

「どの費目が控除され、どの費目が控除されないか」という計算は法的に複雑ですので、示談交渉の際は専門家のチェックが有用です。

結論

煩雑な手続きは専門家のサポートを

大切なご家族を失った直後に、お金の話や手続きの話をするのは、精神的にも大変辛いこととお察しします。しかし、葬祭料はご遺族の当面の負担を支える大切な権利です。

本記事の要点は以下の通りです。

  1. 葬祭料は、実際に葬儀を行った方(通常は喪主)が請求できる。
  2. 金額は「31.5万円+給料30日分」または「給料60日分」の高い方。
  3. 時効は葬儀翌日から「2年」と短いので注意が必要。
  4. 実際の費用に関わらず定額支給だが、不足分は会社への損害賠償でカバーできる可能性がある。

葬儀が終わって一段落したタイミングで構いません。これからの生活のこと、会社への対応のこと、そして適正な補償を受けることについて、一度弁護士にご相談ください。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、ご遺族の心に寄り添い、煩雑な手続きの代行や、会社との交渉をサポートいたします。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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