退職せずに労災申請や損害賠償請求を行う方法とポイント
目次
はじめに Q&A
Q: 労災に遭ってしまったけれど、会社に労災申請や損害賠償請求をしたら辞めなければならないのでは?
A: いいえ、必ずしも退職する必要はありません。労災申請や損害賠償請求を行ったからといって、会社に居づらくなる、解雇される、強制的に退職させられるというわけではありません。
Q: 労災申請をしたら会社に居続けるのは難しくなるのではないですか?
A: 企業によっては労災申請を嫌がるケースもあるかもしれません。しかし、法的には労災申請や損害賠償請求を理由に解雇したり、不当な扱いをしたりすることはできず、そうした処分は無効とされます。
Q: 会社からプレッシャーを受けたり、退職を迫られたりしたらどうすればいいでしょうか?
A: 不当な退職勧奨は違法性が高く、記録を残しておくことで後に有利な証拠となります。また、弁護士へ相談することで、法的な反撃や交渉が可能となり、あなたの労働者としての正当な権利を守ることができます。
本稿では、退職せずに労災申請や損害賠償請求を行うための考え方や法的根拠、実際の対処策、そして弁護士に相談することのメリットなどを、分かりやすく解説します。
退職せずに労災申請・損害賠償請求はできるのか?
多くの方は「労災に遭った場合、会社を相手に請求すると居づらくなり、最終的には退職を余儀なくされるのではないか」と不安に思います。これは、特に中小企業や家族的経営の下で働いている労働者にとって、心理的なハードルとなることも少なくありません。
しかし、法的には、労働者が正当な権利として労災認定を求めたり、損害賠償を請求したりする行為は、あくまでも「労働者の正当な行使」であり、これを理由に退職を強制することは認められていません。会社が「顔をしかめる」可能性は心理的現象としてあり得ますが、だからといってそれが許されるわけではありません。
むしろ、退職せずに会社内で交渉することで、労働者が負った被害や苦痛に対して適正な補償を求め、かつ今後の労働環境改善につながる可能性もあります。労災は公的な保険制度が関与することから、企業側も法的手続きに従わざるを得ないのです。
労災・損害賠償請求が解雇理由にならない法的根拠
日本の労働法制では、解雇には厳格なルールが存在します。労働契約法や判例法理によって、解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」と認められる場合にのみ有効となります。
労災申請や損害賠償請求は、労働者が法的権利を行使する行為です。これ自体を「解雇理由」にすることは客観的な合理性が欠如し、社会通念上も到底受け入れられません。よって、労働者が労災や損害賠償を求めたからといって解雇することは法律的に不当解雇となり、無効と判断されます。
結果として、会社が不当解雇を行った場合、労働審判や裁判を通じて地位確認(「解雇は無効であり、従業員の地位は続く」ことの確認)や、賃金の支払いなどを求めることが可能となります。企業は法的リスクを負うため、安易な解雇はできません。
不利益取り扱いも無効になる
安心して権利を行使するために
解雇だけでなく、降格、減給、配置転換など、労働条件の不利益変更を通じて労働者に圧力をかけることも違法性が高いです。これらは「権利行使への報復的行為」と見なされ、不当労働行為や労働契約法違反となり得ます。
もし会社側が労災申請や損害賠償請求後に、明らかに合理性を欠く不利益変更を行った場合、これも無効化される可能性が高いです。労働者は安心して自らの権利を行使できます。万が一、会社が不当な行為に出た場合は、証拠を確保した上で速やかに専門家へ相談することで、適切な対応を取ることができます。
労災休業中や休業明け30日間の解雇制限
労働者保護の仕組み
労災により就業不能状態が続き、休業補償給付を受給する場合、法律はさらに踏み込んだ労働者保護を定めています。労働基準法19条では、労災による休業中およびその後30日間は、会社が労働者を解雇することを禁止しています。
これにより、労災が原因で仕事を休まざるを得ない状況でも、解雇される心配をせずに休養・療養に専念できます。休業期間中はもちろん、職場復帰後すぐに「労災を使ったから解雇する」などという露骨な行為は法的に許されないのです。
不当な退職勧奨にどう対処する?
証拠収集と冷静な対応
解雇はできなくとも、会社が「自主退職」を誘導するために圧力をかけてくるケースがあります。これが「退職勧奨」です。退職勧奨自体は必ずしも違法ではありませんが、その手段が強要的・脅迫的なものであれば違法性が高まります。
不当な退職勧奨への備え方
- 記録を残す
上司との面談内容をメモしたり、録音できる場合は録音するなど、後から「どのような言動があったか」を証明できる証拠を確保しましょう。 - 即署名は避ける
退職届や合意書へのサインは、その場で求められても避け、慎重に考える時間を確保します。 - 第三者に相談
社内で信頼できる労組、または外部の労働組合や労働相談窓口、そして弁護士に相談することで状況を客観視し、適切な戦略を立てられます。
不当な退職勧奨を受けた場合、後に法的手段で反撃できる可能性があります。会社側の行為が不当な圧力として立証できれば、損害賠償請求や地位確認など有利な展開に持ち込むことも可能です。
弁護士に相談するメリット
専門家の視点で状況を打開
労災申請や損害賠償請求、会社からの不当圧力への対処など、法律にかかわる問題を抱えた場合、弁護士への相談は大きなメリットをもたらします。
弁護士に相談することの利点
- 法的知識と経験に基づく的確なアドバイス
労働法に精通した弁護士であれば、労災手続きの流れや必要書類、時効、損害賠償請求の根拠などについて的確に指導できます。 - 交渉力の向上
会社側と直接交渉するのは精神的負担が大きいものです。弁護士が代理人として交渉することで、感情的対立を避け、冷静かつ有利な条件で合意形成を目指せます。 - 証拠収集や主張立証のサポート
不当な退職勧奨や解雇、労災による損害などを証明するための証拠が不足している場合、弁護士はどのような資料が有効か、どこに相談すればよいかなど、実務的なアドバイスを行ってくれます。 - 紛争解決手続きの専門知識
労働審判、労働局でのあっせん、あるいは裁判に発展した場合にも、弁護士のサポートは強い武器となります。手続きの進め方、主張の組み立て方、判決の見込みなど、多面的な判断を下せます。 - 精神的な安心感
一人で会社と対立するのは心細くストレスが大きいものですが、弁護士が一緒に考え、行動してくれることで精神的な負担も軽減します。
このように弁護士に相談することで、法的な知識不足から生じる不安を解消し、戦略的な行動が可能となります。特に労働問題に精通した専門家に依頼することで、より確実かつ迅速な問題解決が期待できます。
時効や請求のタイミング
在職中と退職後、どちらでも可能な権利行使
労災申請や損害賠償請求は、基本的に在職中でも退職後でも行うことが可能です。労災申請に関しては、負傷や発病を知った日から一定期間内に手続きすることが求められます。一方、民事上の損害賠償請求には時効期間が存在するため、できるだけ早めに対応することが望まれます。
在職中に権利行使することで、会社の対応をリアルタイムで確認できます。また、退職後に落ち着いてから請求することも可能ですが、その間に時効が進行してしまうリスクがある点には注意しましょう。
早い段階で動くことで、証拠も集めやすく、会社側の対応変化にも迅速に対応できます。いずれにせよ、思い立ったらすぐに情報収集を始め、可能ならば弁護士へ相談して戦略的に行動することをお勧めします。
まとめ
会社に残りながら自分の権利を正しく守るために
労災や損害賠償請求は、労働者がけがや病気、精神的苦痛によって被害を受けた際に正当な補償を求めるための正当な手段です。決して「退職」を必須条件とするものではありませんし、これらを理由として解雇や不当な処分が行われれば、それは明らかに不当労働行為、あるいは違法行為となります。
在職中に労災申請や損害賠償請求をすることは可能であり、法律は労働者の正当な権利行使を全力で守ります。もし会社から圧力を受けた場合、退職届の提出を求められたり、不利益な立場に追い込まれたりした場合でも、証拠を確保し、専門家(弁護士)に相談すれば適切な対応が可能です。
要点のおさらい
- 労災申請や損害賠償請求は解雇理由にならない。
- 不利益取り扱い(降格、減給など)も無効化される可能性が高い。
- 労災休業期間中および休業明け30日間は解雇禁止。
- 不当な退職勧奨には証拠確保と専門家への相談が有効。
- 弁護士に相談することで法的戦略と精神的安心を得られる。
- 時効があるため早めの行動が望ましい。
- 在職中でも退職後でも権利行使は可能。
会社に居続けながら、自分の権利を正しく行使することは十分可能なのです。
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