ハラスメント(パワハラ・セクハラ)関連の精神的損害:職場での心の傷と労災適用のポイント
はじめに
「上司の暴言や理不尽な叱責を受け続けてうつ病になった」「上席医師からセクハラを受け、出勤できなくなった」――職場におけるハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラなど)は、単に職場の雰囲気を悪化させるにとどまらず、精神的な傷害(精神障害)を引き起こして長期の休業や退職へと追い込む重大な問題となります。
こうしたハラスメントが原因で発症するうつ病や適応障害、パニック障害などは、業務上の強い心理的負荷として労災認定の対象になり得ます。会社には、労働安全衛生法やパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)などで定められたハラスメント防止措置を講じる義務があり、それを怠った結果、被害者が心身の不調をきたした場合には会社の安全配慮義務違反となる可能性があります。
本稿では、パワハラ・セクハラといったハラスメントによる精神的損害が労災として認定されるポイント、会社が負う責任、そして実際に被害が発生した場合の対処法・予防策を解説していきます。「嫌がらせや暴言は仕方ないもの」と諦めず、自身や同僚の心の健康を守るためにも正しい知識を身につけましょう。
Q&A
以下では、ハラスメントによる精神的損害について、よくある質問(Q)と回答(A)を簡潔にまとめています。詳細は後述の「解説」で深掘りします。
Q1. パワハラやセクハラによるうつ病は、労災として認定されるのですか?
はい。厚生労働省の精神障害に関する労災認定基準では、職場での著しい嫌がらせやいじめ、セクハラなどが「業務上の強い心理的負荷」として認められ、うつ病などの精神疾患が労災認定されるケースがあります。
Q2. 上司から暴言を繰り返されても「指導の範囲内」と言われてしまいますが、どこがパワハラとの線引きですか?
パワハラかどうかは、発言内容・回数・場所・対象者の受け止め方などを総合的に判断します。人格否定や脅迫的言動、過度な侮辱など指導の範囲を逸脱している場合はパワハラとみなされやすいです。
Q3. セクハラ被害でも労災認定はある?
あります。セクハラによって精神的苦痛が重くなり、適応障害やうつ病などを発症して業務に支障が出た場合、業務上の心理的負荷として労災認定される可能性があります。
Q4. 会社が「本人のメンタルが弱いだけ」として手続きを拒否してきたらどうすれば?
会社が認めなくても、労災申請は本人が直接、労働基準監督署に行えます。弁護士など専門家に相談し、発言録音やメモなどの証拠を揃えて監督署へ申請する方法があります。
Q5. パワハラ防止法があると聞きますが、具体的にどこまで会社はやらなきゃいけないの?
改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)では、相談窓口の整備、再発防止策、当事者への適切な対応などが義務化されています。これを怠れば会社は安全配慮義務違反に問われるリスクが高いです。
解説
ここでは、ハラスメントによる精神的損害を労災として認めさせるためのポイントや、会社の責任、安全配慮義務の具体的内容、実際の対応策などを詳しく見ていきます。
パワハラ・セクハラとは何か?
パワハラ(パワーハラスメント)
- 優越的な地位(上司から部下、先輩から後輩、特定の立場の強い従業員)を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える言動。
- 暴言・侮辱・脅迫・無視など、人格否定的な言動を繰り返す。
- 過大な業務量や逆に仕事を与えない行為もパワハラとなる場合がある。
セクハラ(セクシャルハラスメント)
- 相手の意に反する性的な言動・要求で不快感や被害を与える行為。
- 言葉による性的な侮辱・卑猥な冗談、身体接触、わいせつ画像の強要などが典型例。
- 管理職や人事権を握る立場でのセクハラは特に問題視されやすく、被害者に与える精神的苦痛も大きい。
精神的損害が労灿保険の対象になる理由
厚労省の精神障害労災認定基準
精神障害の労災認定では、「業務による強い心理的負荷」が原因で精神疾患を発病し、発病した時期とその負荷が近接しているかがポイント。
- 職場でのいじめ・嫌がらせ、セクハラやパワハラ行為が該当する場合は、心理的負荷が強いと評価されやすい。
- 具体的な評価表があり、ハラスメントの内容(回数、期間、暴言や暴力の度合いなど)を総合的に判断。
長期的な嫌がらせによる心的外傷
単発の暴言だけではなく、長期間にわたる嫌がらせや繰り返される侮辱行為などが精神疾患を誘発する原因になる。
- 被害者がうつ病、適応障害などと診断され、医師の意見書で「職場での強いストレス」を指摘されれば、労災認定される可能性がある。
会社(使用者)が負う安全配慮義務と違反
パワハラ防止法と会社の義務
- 2020年の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、会社はパワハラを防止するための措置を講じる義務がある。
- 具体的には、相談窓口の設置、指針・マニュアルの整備、加害者への厳正処分などが求められる。
- 大企業は義務化、中小企業は2022年4月から義務化され、違反時に行政指導を受ける可能性がある。
安全配慮義務違反
- ハラスメントが横行している職場で、会社が放置していた場合、被害者が精神障害を発症すれば安全配慮義務違反となる可能性がある。
- 会社は労働者が健康かつ安全に働ける環境を整える義務を負っており、「パワハラは個人間の問題」として放置したなら責任を免れない。
ハラスメントが起きたら(精神疾患発症時の対応)
- 医療機関で診断・カウンセリング
心身に異変を感じたら、精神科・心療内科で受診。嫌がらせの内容や期間を医師に詳しく伝える。医師の診断書が労災認定に重要。 - 会社や上司への報告・相談窓口の活用
信頼できる部署(人事部、産業医、コンプライアンス部門など)があれば相談。会社が動かない場合でも記録に残す。 - 証拠の収集
ハラスメントの内容をメモや録音、メール・チャットの履歴などで可能な限り残す。 - 労灿保険手続き
会社が拒否しても、本人が監督署へ直接申請可。様式第5号(療養補償給付)を基本に、診断書や証拠書類を添付する。 - 損害賠償請求の検討
会社の対応が不十分な場合、安全配慮義務違反による逸失利益や慰謝料を求める。弁護士のサポートで示談・裁判を進める。
予防策と会社の取り組み
- パワハラ・セクハラに関する社内規定の策定と周知徹底
- 相談窓口の設置:匿名相談ができる仕組みも考慮。
- 研修・啓発活動:管理職だけでなく全従業員に対し定期的にハラスメント防止教育を行う。
- 加害者への厳正処分:事実確認後には速やかに懲戒処分・配置転換などの対応を取り、被害者を保護する。
- メンタルヘルスケア:産業医やカウンセラーを活用し、被害者や従業員全体の心の健康を守る。
ハラスメント(パワハラ・セクハラ)関連の精神的損害:職場での心の傷と労災適用のポイント
弁護士に相談するメリット
- 業務起因性の立証と労灿申請サポート
ハラスメントが原因で精神疾患になったことを会社が否定する場合、弁護士が言動の証拠や医師の診断書を整理して、監督署への説得力ある申請を手助けする。 - 会社との交渉・示談
会社がパワハラ加害者を処分せず、被害者が休職や退職に追い込まれる場合、弁護士が代理で交渉し、損害賠償や解決金を求める。労災保険給付以外の部分もカバー。 - 証拠収集・保全の助言
ハラスメントは証拠が曖昧になりがち。弁護士が日付、場所、発言内容を含む具体的な記録や、録音データ・メール履歴などをどう保全すればよいか指導。 - 不服申立(審査請求・再審査請求)
労灿保険が不支給となった場合、弁護士が審査請求や再審査請求の書類作成、追加証拠の提出を行い、認定を勝ち取る可能性を高める。 - 職場復帰や退職時のトラブル防止
被害者が復職を望む場合の調整や、辞めざるを得ない場合の交渉(円満退職、解決金要求など)も弁護士がスムーズに進められる。
まとめ
ハラスメント(パワハラ・セクハラ)による精神的損害は、単なる嫌がらせを超えた労働災害として対応が求められる重大な問題です。
- パワハラ
上司や先輩が立場を利用して暴言・暴力・過度な叱責を繰り返し、被害者がうつ病や適応障害を発症する。 - セクハラ
性的な言動・身体接触などで被害者が不眠や不安障害になり、出勤できなくなる。
これらが原因で精神障害を発症すれば、労灿保険の対象となり得るだけでなく、会社がパワハラ防止法や安全配慮義務に違反していた場合は損害賠償を請求される可能性もあります。
会社側には、相談窓口の整備や再発防止策、加害者への処分といった積極的対策が義務づけられています。それを怠っている場合、被害者が法律事務所などを通じて示談交渉や訴訟を起こし、賠償金や解決金を請求する事例も増加しています。
もし職場でハラスメント被害を受け、心身の不調に苦しんでいるなら、一人で抱え込まず医療機関受診・会社の相談窓口利用・労灿保険申請などを検討し、必要に応じて弁護士へ相談することが大切です。
動画のご紹介
労働災害でお悩みの方に向けて、労働災害に関して解説した動画をYoutubeチャンネルで公開しています。
「パワハラ被害と損害賠償のポイント」「セクハラによる精神疾患の具体事例」「会社の防止義務と安全配慮義務の関係」などを分かりやすく解説していますので、ぜひご覧いただき、チャンネル登録もあわせてご検討ください。