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労災による後遺障害で受け取れる金額とその手続きのポイント

はじめに

労働災害によって負った怪我や病気が完治せず、後遺障害が残ってしまった場合、どのような補償が受けられるのか、多くの方が不安や疑問を抱えることと思います。労災保険制度では、後遺障害が認定された場合に、障害等級に応じた補償が支給されますが、その金額は等級や補償の種類によって大きく異なります。また、労災保険からの給付だけでなく、会社に対して損害賠償請求を行うことも可能です。しかし、これらの手続きや計算方法は複雑で、専門的な知識が必要となるため、適切な対応を取ることが難しい場合も少なくありません。

そこで本記事では、労災による後遺障害で受け取れる金額や補償内容について、わかりやすく解説します。また、労災の手続きをスムーズに進めるためのポイントや、弁護士に相談するメリットについても触れていきます。労災事故で後遺障害が残ってしまった方や、そのご家族の方にとって本記事がご参考となれば幸いです。

Q&A形式

Q1: 労災の後遺障害とは何ですか?

A1: 労災の後遺障害とは、労働災害で負った怪我や病気が治療を経ても完治せず、一定の症状が残ってしまった状態を指します。厚生労働省が定める「後遺障害等級表」に基づいて、その症状がどの等級に該当するかが決定されます。この等級は、症状の重さや生活への影響度に応じて1級から14級までの14段階に分かれており、等級が高いほど受け取れる補償金額も高くなります。

労災保険制度では、後遺障害に該当する症状を持つ労働者に対し、その症状の重さに応じた補償が行われます。例えば、両目が失明した場合や常に介護が必要な状態となった場合は1級に該当し、より手厚い補償が提供されます。一方で、指の一部が不自由になる程度の後遺症の場合は、14級に該当し、比較的少額の補償が支給されます。

Q2: 労災で後遺障害が認定された場合、どのような補償が受けられますか?

A2: 労災で後遺障害が認定された場合、以下の補償が受けられます。これらの補償は、後遺障害の等級や個々の状況に応じて支給されるものであり、それぞれに具体的な金額が設定されています。

  1. 障害(補償)等給付
    後遺障害の等級に応じて支給される給付です。1級から7級までの重度の障害の場合は年金形式で支給され、8級から14級までの比較的軽度の障害の場合は一時金として支給されます。年金として支給される場合、障害の程度や被災者の年齢に応じて支給額が決まります。
  2. 障害特別支給金
    障害(補償)等給付に上乗せして支給される特別な給付金です。この支給金は、障害等給付の補完的な役割を果たし、被災者が社会復帰を目指すための支援を行う目的で支給されます。支給額は一時金で支払われることが多く、等級に応じてその額が異なります。
  3. 障害特別年金
    これは、通常の給与とは別に、特別なボーナスに対応する形で支給される年金です。一定の条件を満たす場合に限り、所定の日数分の支給が行われます。これは労働者が障害を負った後も経済的な負担を軽減するために設けられた制度です。
  4. 障害特別一時金
    障害等給付や障害特別支給金とは別に、特定の状況下で支給される一時金です。この給付は、労働者が障害によって直面するさまざまな経済的困難に対する支援を目的としています。支給金額は状況に応じて異なりますが、通常の給付額に追加される形で支払われます。

Q3: 労災の後遺障害14級に該当する場合、具体的にどのくらいの金額を受け取れますか?

A3: 労災の後遺障害14級に該当する場合、労災保険から受け取れる金額の一例は以下の通りです。この例では、モデルケースとして年収600万円(月収50万円)、40歳の被災者を想定しています。

  • 障害補償等給付:約1万6500円×56日分=約92万4000円
  • 障害特別支給金:8万円
  • 障害特別一時金:約5500円×56日分=約30万8000円

これらを合計すると、労災からの支給額は約131万2000円となります。これは、労災保険から支給される金額に限られますが、さらに後遺障害慰謝料や逸失利益として、別途賠償金を請求することも可能です。

例えば、後遺障害14級の後遺障害慰謝料の相場は約110万円とされています。また、逸失利益の計算式は以下の通りです。

逸失利益の計算式
1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

ここでの基礎収入は、600万円(事故前の年収)が基準となります。労働能力喪失率は後遺障害の等級に応じて決定され、14級では5%とされています。年齢40歳でのライプニッツ係数は18.3270ですので、逸失利益は以下のように計算されます。

逸失利益
600万円×5%×18.3270=約549万8100円

この場合、総額で後遺障害14級に該当する被災者は、労災保険からの給付金131万2000円に加え、賠償金として後遺障害慰謝料110万円と逸失利益549万8100円を合計した、約791万0100円を受け取ることが可能となります。

Q4: 労災の後遺障害13級の場合、受け取れる金額はどのくらいですか?

A4: 労災の後遺障害13級に該当する場合の支給金額の一例は以下の通りです。こちらも、年収600万円(月収50万円)、40歳の被災者をモデルケースとしています。

  • 障害補償等給付:約1万6500円×101日分=約166万6500円
  • 障害特別支給金:14万円
  • 障害特別一時金:約5500円×101日分=約55万5500円

これらを合計すると、労災からの支給額は約236万2000円となります。さらに、後遺障害慰謝料や逸失利益として、別途賠償金を請求することが可能です。

  • 後遺障害慰謝料:190万円
  • 逸失利益:600万円×9%×18.3270=約989万0010円

このように、労災の後遺障害13級の場合、労災保険からの給付236万2000円に加えて、賠償金として後遺障害慰謝料190万円と逸失利益989万0010円を合計した、約1415万2010円を受け取ることが可能です。

Q5: 労災で受け取れない費目はありますか?

A5: 労災保険は労働者に対して幅広い補償を提供しますが、全ての損害をカバーしているわけではありません。具体的には、以下のような費目は労災からの給付対象外です。

  1. 入通院慰謝料:治療期間中にかかる精神的苦痛に対する補償です。
  2. 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する補償です。
  3. 逸失利益:後遺障害によって将来の収入が減少することに対する補償です。

これらの損害については、労災保険ではカバーされないため、別途、会社に対して損害賠償を請求する必要があります。例えば、後遺障害慰謝料や逸失利益は、通常、裁判所や交渉を通じて企業から賠償金を受け取る形になります。

労災保険による補償と企業に対する損害賠償の両方を適切に請求することで、被災者はより十分な補償を受けることが可能です。ただし、これらの手続きには専門的な知識が必要であり、弁護士の支援を受けることが望ましいです。

Q6: 労災の後遺障害で必要となる手続きは何ですか?

A6: 労災の後遺障害で補償を受けるためには、以下の手続きを行う必要があります。これらの手続きは、労災保険から適切な補償を受けるために重要です。

  1. 症状固定の診断
    治療が終了し、これ以上の治療では症状が改善しない状態、すなわち「症状固定」と診断される必要があります。症状固定の診断は、主治医が行い、これがなければ後遺障害の認定手続きを進めることができません。
  2. 必要書類の準備
    症状固定が診断されたら、後遺障害の内容が明確になるため、労災保険の給付申請に向けて必要な書類を準備します。業務災害の場合は「障害補償給付支給請求書(様式第10号)」、通勤災害の場合は「障害給付支給請求書(様式第16号の7)」を使用します。また、医師による後遺障害診断書や、MRIやレントゲンなどの医療記録も必要です。
  3. 労働基準監督署への申請
    必要な書類を揃えたら、管轄の労働基準監督署に対して後遺障害の認定申請を行います。申請書類が正確であることを確認し、不備がないように注意してください。
  4. 労働基準監督署による調査
    申請が受理されると、労働基準監督署は後遺障害がどの等級に該当するのかを確認するための調査を行います。この調査には、提出された書類に基づく審査や、調査官による面談が含まれることがあります。
  5. 審査結果の通知
    労働基準監督署による審査の結果、後遺障害の等級が決定され、その結果が申請者に通知されます。この結果に基づき、労災保険からの給付が支給されます。

Q7: 労災で後遺障害の補償を受ける際に、弁護士に相談するメリットは何ですか?

A7: 労災で後遺障害の補償を受けるための手続きは非常に複雑であり、特に初めて経験する方にとっては難解な部分が多いです。こうした手続きを適切に進め、最適な補償を受けるためには、弁護士に相談することが大きなメリットとなります。

  1. 専門知識と経験の活用
    労災問題に強い弁護士は、後遺障害の認定や賠償請求に関する豊富な知識と経験を持っています。そのため、個々のケースに応じた最適なアドバイスを受けることができます。
  2. 適切な補償額の確保
    弁護士は、労災保険からの給付だけでなく、会社に対する損害賠償請求についても対応します。労災保険でカバーされない損害に対しても、適切な補償額を請求するための交渉を代理します。
  3. 手続きの負担軽減
    労災の手続きは非常に煩雑であり、被災者自身がすべてを行うのは大きな負担となります。弁護士に依頼することで、手続きにかかる時間と労力を軽減し、被災者が治療やリハビリに専念できるようになります。
  4. 安心感と信頼
    専門家に手続きを任せることで、法律的なトラブルや手続きの遅れを回避し、安心して対応を進めることができます。また、弁護士が関与することで、相手方(会社)との交渉もスムーズに進むことが多く、より有利な結果を得られる可能性が高まります。

まとめ

労災による後遺障害で受け取れる補償は、等級や状況によって大きく異なります。適切な補償を受けるためには、労災保険制度の仕組みや手続きに対する深い理解が必要です。また、企業に対する損害賠償請求についても、法的な知識が必要となります。

労災問題に関してお困りの際は、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。当事務所の専門弁護士が、豊富な経験と知識を活かして、あなたの権利を最大限に守るためのサポートを提供します。労災に関するご相談は、電話やオンラインでも対応可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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