会社が労災申請に協力してくれない場合の対処法
Q&A
Q: 会社から『労災申請をしないでほしい』と言われました。どうすればいいでしょうか?
労働災害(以下、「労災」といいます)は、労働者が業務上または通勤途中に負った傷病・障害・死亡に対して公的補償が受けられる制度です。会社から「申請するな」と言われても、労災保険は労働者が当然に利用できる権利であり、申請を拒否することは違法行為にあたる可能性があります。会社が労災申請を妨害するのは、いわゆる「労災隠し」に該当する恐れがあり、これは処罰の対象にもなります。もし、会社が非協力的な場合は、ご自身で労働基準監督署への申請が可能なうえ、弁護士など専門家への相談によって、適切な補償や権利行使ができるようサポートを受けることができます。
Q: 労災申請しないとどんな不利益がありますか?
労災申請をしない場合、治療費・休業補償・後遺障害補償などの法的に定められた救済が受けられない可能性があります。また、事故発生直後に正確な申請を行わないと、後から事故の存在そのものやその原因・責任関係を明らかにすることが困難になり、結果として適正な補償や慰謝料などを得られなくなる恐れがあります。
Q: 会社とトラブルになりそうで不安です。どう対応すればいいですか?
会社が非協力的な場合、まずは労働基準監督署に相談することを検討してください。労基署は、労働者の権利保護に関する公的機関です。また、弁護士への相談によって、会社への対応方針や証拠の収集方法、必要手続きの流れなどを具体的にアドバイスしてもらえます。専門家の支援を受けることで、心理的な負担も軽減できます。
この原稿では、労災申請を巡る基本的な流れやトラブルへの対処法、弁護士に相談するメリットなどを、多角的かつわかりやすく解説します。
労災申請をめぐる基本知識
業務中・通勤中の傷病は労災保険の対象
労災とは、労働者が業務中または通勤途中に負った怪我や疾病、後遺障害、さらには死亡事故に至る場合も含めた公的補償制度です。雇用者(事業者)は、労働者が労災にあった場合、遅滞なく労働基準監督署への報告(死傷病報告)の提出が義務づけられています。この報告義務は「労働安全衛生法」に明確に規定されており、会社は労災事故を隠蔽することは許されません。
労災保険を使うメリット
労災保険が適用されると、
- 療養補償給付(治療費の全額補助)
- 休業補償給付(賃金補償)
- 障害補償給付(後遺障害が残った場合の補償)
- 遺族補償給付(死亡時の遺族年金・一時金)
などが受けられます。健康保険や任意保険と異なり、基本的には労働者の自己負担はありません。
「労災申請するな」と言われた場合のチェックポイント
以下のようなケースは、労災隠しが疑われます。こうした状況に直面した場合、法律事務所や労働基準監督署に相談することを検討してください。
- 会社が「労災を申請しないでほしい」と直接言ってくる
- 治療費を健康保険で立て替えるように言われ、「差額は会社が払うから労災は使うな」と誘導される
- 休業中の賃金補償を会社側の任意保険で対処するから、労災申請はしないよう促される
- 本来重症であるはずなのに、軽症扱いを強いられる
- 労働基準監督署に提出する事故発生状況の記載内容が、実際の事故とは食い違っている
会社が労災隠しを行う背景と狙い
企業が「労災申請するな」と言う理由には、以下のようなものが考えられます。
- 労災保険料率への影響
労災事故が発生すると、将来的に労災保険料率が上がる恐れがあります。企業はコスト増を避けたいため、労災を隠したくなることがあります。 - 対外的イメージの低下回避
労災事故が明るみに出れば、社会的信用が低下し、元請けや取引先からの発注が減ることを恐れる企業は多いです。 - 他の違法行為の露呈防止
過重労働や安全配慮義務違反など、労災をきっかけに別の問題行為が発覚することを避けたいという心理があります。
こうした背景から、会社は被災した労働者に対し労災申請を思いとどまらせようとする場合があります。
労災申請を拒否されたらどうする?具体的対処法
労災は労働者の権利
会社が「労災は使わないでくれ」や「自前で何とかするから」と言っても、あなたには労災を利用する法的権利があります。もし会社が押印を拒否しても、労災申請書には会社押印の代わりに「会社が協力してくれない」と記すことで、労働基準監督署が受け付けてくれます。
証拠の確保
事故直後から、被災状況や日付、現場の写真、目撃者の証言など、できる限りの証拠を確保しましょう。会社が後に事故内容を軽視・改ざんしようとしても、実証的証拠があれば反論しやすくなります。
労災を軽症扱いされそうな場合の注意点と対処策
軽症扱いの背景
休業が3日以内のケガであれば、会社は3か月ごとに死傷病報告をまとめて提出でき、かつ休業補償給付は発生しません。このため、4日目以降の休業を避け、実際は重症でも「軽症」という扱いにする企業もあり得ます。これに応じると後日、会社側から「当初は軽傷だったのだから、後遺障害や長期休業は事故が原因とは限らない」などと責任逃れをされる恐れがあります。
対策
実際には重症である場合、医師の診断書や検査結果をもとに、会社へ異議を申し立て、必要であれば労働基準監督署に事実を訴え出ましょう。
事故内容を改ざんされそうな場合のリスクと対応
改ざんの狙い
会社は、事故が自社の責任ではないように報告書を改ざんしたり、発生場所を偽ったりして責任逃れを試みることがあります。これにより、後にあなたが慰謝料や損害賠償を求めても、「報告書上は別の場所での自損事故」とされてしまい、真実の立証が困難になります。
対応策
本来の事故状況と異なる内容が記載されていたら、速やかに会社へ異議を唱え、それでも改善しない場合は、労働基準監督署や法律事務所などの専門家に相談して適切な対応を検討しましょう。
弁護士に相談するメリット
労災をめぐるトラブルは、法律知識や手続きの知見が欠かせません。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
- 専門的な法的アドバイス
労災保険制度や労働法規、判例などに精通した弁護士から、個別の状況に即したアドバイスが得られます。 - 会社との交渉代行
感情的対立を避け、冷静かつ有利な条件で和解や補償を引き出すため、弁護士が代理人として交渉に臨むことができます。 - 証拠収集や書面作成のサポート
労災申請に必要な書類作成や、万一訴訟に至る場合の準備、証拠の精査などを専門家がサポートします。 - 心理的負担の軽減
会社とのトラブルは精神的ストレスが大きいものです。弁護士と二人三脚で対応することで、精神的な負担を軽減できます。 - 不当な主張への対抗
会社側が責任逃れを狙っても、法的見地から不当な主張を排除し、適正な補償を得る後ろ盾になります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、労災事故に遭われた方々の相談を受け付けております。ぜひ安心してご相談ください。
労働基準監督署への相談方法・手続きの流れ
労災申請を拒否されたり、会社が不正行為を行っていると感じた場合、労働基準監督署への相談が有効です。労基署は、労働条件・安全衛生に関する違反を取り締まる公的機関で、企業への指導や是正勧告を行う権限を持っています。
相談の流れ
- 最寄りの労働基準監督署を調べる
会社の所在地を管轄する労基署を確認します。 - 面談相談・電話相談
状況を説明し、証拠(医師の診断書、事故現場の写真、同僚の証言など)を示すと、労基署は会社への調査や指導を検討します。 - 労基署からの指導・処分
必要に応じて、労基署は会社に対し是正勧告や場合によっては刑事告発などを行います。
自力で労災申請する場合のポイント
会社が非協力的な場合でも、労災保険は労働者自身が申請できます。
- 必要書類の入手
労働基準監督署や厚生労働省のウェブサイトで労災申請書類を確認しましょう。 - 会社の押印拒否時の対応
前述のとおり、会社が非協力的な場合は「会社が押印・署名を拒否している」と明記した上で提出すれば審査されます。 - 適切な医療機関の受診
労災保険指定医療機関で治療を受ければ、窓口負担なしで治療できます。
まとめ
労災申請は、被災した労働者が当然受けるべき法的権利であり、企業側がそれを阻むことは許されません。会社が「申請するな」と言う背景には、コストやイメージ低下、他の違法行為の露呈を恐れる事情があることが多いですが、あなたが受けるべき正当な補償を妨げる理由にはなりません。
もし、労災隠しや軽症偽装、事故状況の改ざんなど不審な行為があれば、
- 証拠確保
- 労働基準監督署への相談
- 弁護士への相談
を行うことで、より確実に権利行使が可能となります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、労災事故に関するご相談を随時受け付けております。法的手続きのご不明点や会社対応のストレスから解放され、適正な補償を得るためにも、ぜひ専門家への相談をご検討ください。
動画のご紹介
労災でお悩みの方に向けて、労災に関する解説動画を公開しています。ぜひご視聴ください。