給付申請の手続きと必要書類
はじめに
業務上のケガや病気で労災保険を利用したいとき、まず頭に浮かぶのは「どんな書類が必要なの?」「手続きの流れはどうなっているの?」といった基本的な疑問です。会社が協力してくれればいいものの、非協力的だったり、そもそも労災保険の理解が進んでいない現場も少なくありません。結果的に書類不備や手続きの遅延で、給付が滞ってしまうことも多々あります。
本稿では、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付など、主要な労災保険給付を請求する際の代表的な手続きや、必要となる書類の種類・作成上の注意点をわかりやすく整理します。会社が非協力的な場合や、自力で書類を揃えなければならないケースでも、正しい情報を押さえておくことが大切です。もし自信がない場合は、弁護士など専門家にアドバイスを求めるとスムーズに進むでしょう。
Q&A
まず、労災保険給付の申請手続きに関する代表的な疑問(Q)と回答(A)をまとめます。詳細は後述の「3 解説」で取り上げます。
Q1. 会社が書類作成を拒否しても手続きできるの?
はい。労災保険は労働者本人が労働基準監督署に直接申請できます。会社の非協力があっても、監督署が会社に照会を行い、認定する仕組みになっています。
Q2. 主な様式にはどんなものがありますか?
代表的なものに、療養補償給付(様式第5号・第7号)、休業補償給付(様式第8号)、障害補償給付(様式第10号)、遺族補償給付(様式第12号)などがあります。いずれも医師や会社の記入欄が必要なケースが多いです。
Q3. 必要書類の不備で支給が遅れることはある?
あります。書類ミス、会社の証明不足、医師の診断書の記載漏れなどで、監督署が追加資料を求めると数か月単位で給付が遅延することがあります。
Q4. どこで様式を手に入れるのですか?
労働基準監督署や会社の総務・人事部などで入手できます。厚生労働省のウェブサイトに様式が公開されているため、自宅でダウンロードして印刷することも可能です。
Q5. 書類の提出先は必ず会社所在地の監督署?
原則として会社の所在地を管轄する労働基準監督署が提出先です。
解説
ここでは、労災保険の代表的給付を申請する際の書類や手続きの流れを、療養・休業・障害・遺族の4つに分けて詳しく解説します。会社の非協力や書類不備による遅延を防ぐコツも紹介します。
療養補償給付:様式第5号・第7号
事故発生直後の流れ
- ケガや病気が判明したら、会社に報告。会社または労働者が様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)を記入し、指定医療機関へ提出。
- 指定医療機関なら自己負担ゼロで治療が受けられる。指定外病院なら、様式第7号(費用請求書)で後から立替分を請求。
書類上の注意点
- 会社の証明欄:事故の発生日、就業状況、業務起因性を証明。会社が拒否しても監督署が照会して対応可能。
- 医師の記入欄:診断内容、治療開始日などがポイント。誤字や日付の不一致に注意。
休業補償給付:様式第8号
毎月請求の基本
- 休業補償給付は1か月分ごとに監督署へ請求する。様式第8号(休業補償給付支給請求書)を提出し、就労不能期間を証明する医師の証明欄が重要。
- 会社の記入欄で賃金情報を記入し、労働者の賃金日額や休業開始日などを報告。
書類不備のありがちなミス
- 医師の「就労不能期間」欄の書き方が曖昧(具体的な日付がないなど)
- 会社の賃金証明が誤っている(残業代や手当を含め忘れたなど)
- 労働者本人の印や住所記載漏れ
障害補償給付:様式第10号
症状固定後の手続き
- 治療の結果、症状固定となり後遺障害が残った場合、医師の後遺障害診断書を添付して様式第10号で申請。
- 会社の証明欄、医師の「後遺障害状況」記載が重要で、障害等級を監督署が判断する。
書類取得の注意点
- 病院や医師の検査結果(X線、CT、MRIなど)を確実に揃える。後遺障害の程度を立証する資料が重要。
- 会社が「それほどの障害じゃない」と主張しても、最終判断は監督署が行う。
遺族補償給付・葬祭料:様式第12号
遺族が請求する場合
- 業務上・通勤上の死亡事故が起きたら、遺族が様式第12号(遺族補償給付支給請求書)を提出する。会社の証明欄や死亡診断書などが必要。
- 葬祭料も同じ様式で請求できる。給付基礎日額に日数を乗じた形で支給されるが、最低保障額が定められている。
相続関係・生計維持証明
- 遺族が複数いる場合、誰が何割を受給するのかなど、法令に基づく順位がある。会社の協力がなくても、遺族側が戸籍謄本などを揃えて監督署へ提出。
- 生計維持の実態(同居・仕送りなど)の証明書類が要求されることもある。
会社の非協力とその他の注意点
会社が証明欄を拒否・虚偽記載
- 労災申請時に必要な会社の証明を拒む「労災隠し」や、虚偽の記載をする事例が見られる。
- 監督署が調査権限を持っており、労働者本人が直接申請して調査を依頼できる。
時効と書類期限
- 労災保険の申請時効期限は、給付内容ごとに起算日から2年あるいは5年が原則。ケガの発生日や症状固定日を起点として各給付の時効が走るため、書類提出が遅れると権利喪失の恐れがある。
- 審査請求などで不服を申し立てる時も期限管理が重要。
不備があると支給遅延
書類の記入漏れ、医師の診断書の不統一、賃金証明との齟齬などにより補正が発生し、結果的に数か月程度遅れてしまうケースが少なくない。
弁護士に相談するメリット
- 書類の整合性・不備対策
弁護士が様式の記入要領や医師の証明内容をチェックし、不備を事前に防ぎ、スムーズな監督署審査につなげる。 - 会社が協力しない場合の交渉代理
弁護士が会社と連絡を取り、事実関係を整理。監督署へも適切に説明して、虚偽主張や書類拒否を回避する。 - 時効管理と期限管理
申請時効や不服申立の期限を見落とさないよう助言を行い、権利喪失を防止する。 - 支給打ち切り・低等級の異議申立
「症状固定」「後遺障害なし」など監督署判断に不服がある場合、弁護士が審査請求・再審査請求手続きをサポートし、結果を覆す可能性を高める。 - 全体的損害賠償アドバイス
労災保険だけでは不十分な補償の場合、会社の安全配慮義務違反に基づいて損害賠償を求める道もある。弁護士が示談・訴訟を含めて包括的に対応。
まとめ
労災保険で給付を受けるための申請手続きは、様式ごとに異なる書類が必要だったり、会社や医師の記入欄があったりと複雑です。しかし、正しい手順を踏み、必要書類を整えれば、適切な給付を確実かつ早期に受け取ることができます。
- 療養補償給付:様式第5号または第7号
- 休業補償給付:様式第8号
- 障害補償給付:様式第10号(後遺障害認定)
- 遺族補償給付・葬祭料:様式第12号
会社が書類作成を拒否・渋るなど非協力的でも、被災者本人が労働基準監督署に直接行き、書類不備を補正すれば、最終的に労災給付が認定される可能性は十分あります。もし手続きで混乱し、支給が遅延しそうな際は、弁護士法人長瀬総合法律事務所など専門家に相談すると、早期解決と適切な給付の確保に繋がるでしょう。
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