休業補償給付の打ち切り問題
はじめに
労災でケガや病気になり、休業補償給付を受けて治療とリハビリに専念する――この制度は、被災労働者が安心して休むための大きな支えです。しかし、途中で「休業補償を打ち切りとする決定」を監督署や会社から言い渡されるケースも少なくありません。
「もう症状は改善しないから症状固定」「そろそろ復帰できるから就労可能」といった理由で休業補償が打ち切られると、まだ治療が必要な状態でも経済的補償が途絶えてしまう恐れがあります。もし納得できなければ異議申立で争う道もありますが、書類や証拠をしっかり揃えないと結果が覆らない場合も多いのです。
本稿では、休業補償給付の打ち切り理由やよくあるトラブル、監督署とのやりとりや不服申立の進め方など、被災労働者が知っておくべきポイントを包括的に解説します。会社や監督署から打ち切りを告げられ、まだ働ける状態じゃないのにどうしよう…とお悩みの方は、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
Q&A
まず、休業補償給付の打ち切りをめぐる代表的な疑問(Q)と回答(A)を整理します。詳細は「3 解説」で深掘りします。
Q1. そもそもなぜ打ち切りになるの?
休業補償給付は「仕事ができない状態」の間支給されますが、症状固定や就業可能と判断されれば「もう休業の必要がない」と見なされ、打ち切りになるのが基本的な流れです。
Q2. 症状固定と言われても、実際に痛みや不便が続いている場合は?
納得できないなら、医師の意見書などで「まだ治療の効果が見込める」ことを主張し、監督署の決定に不服申立(審査請求・再審査請求)を行う道があります。
Q3. 打ち切り後の生活費はどうなる?
打ち切り時点で症状固定し、後遺障害が認められれば障害補償給付(年金または一時金)に移行します。後遺障害がないと判断されれば、労災保険からの給付は終了するため、他の社会保険や会社との交渉次第となります。
Q4. 会社が「もう治ったはずだから」と打ち切りを迫ってきたが?
打ち切りの判断は最終的に監督署が行うもので、会社が独断で決めることはできません。会社が圧力をかけても、医師や監督署の判断が優先されます。
Q5. 打ち切り後に病状が悪化したらどうなる?
すでに症状固定と判定されて休業補償が終了していても、医師の再評価などで「実は症状固定ではなかった」と認められる場合は、再度休業補償給付が復活する可能性があります(追加請求や異議申立)。
解説
それでは、休業補償給付の打ち切り問題について、「打ち切りが起こる理由・プロセス」「対応策や異議申立の流れ」「実際のトラブル事例と対処法」などを詳しく解説します。
打ち切りが起こる主要な理由
症状固定・就業可能判断
- 休業補償給付は、労働不能状態であることが前提。医師が「これ以上治療しても改善が見込めない」と判断すれば症状固定となり、休業補償は終了し、次の障害補償給付に移行する。
- あるいは、就労可能(限定的でも働ける)と判断されれば、労基署が「もう休業の必要がない」と認定し、打ち切りとなる。
1年6か月経過
休業補償給付は1年6か月を一つの目安として扱う場合が多い。これを過ぎても治癒せず重い傷病が残れば、傷病補償年金の対象となる可能性があるため、休業補償給付から切り替わる形で打ち切りとなることがある。
打ち切りの通知〜その後の流れ
通知書の受け取り
監督署は審査の結果、打ち切り理由(症状固定・就労可能・1年6か月経過など)を記載した決定通知(不支給決定通知)を出す。打ち切り日以降の休業補償給付は支給されなくなる。
不服がある場合
- 「まだ痛みが強くて働けない」「医師の診断は誤りだ」と考えられる場合には、審査請求で異議を申し立てることを検討する。
- 新たな医証(MRI結果や専門医の意見書)を提出し、監督署の判断を覆す可能性を高める必要がある。
想定トラブル事例
医師と労基署の見解相違
- 担当医は「まだ治療を続ければ改善の余地がある」と言うが、監督署の医学顧問が「症状固定」と見なすケース。
- 被災者が複数の医師の意見を用意し、詳細な検査結果を提示することで対抗する。
会社が就労可能と判断
- 会社が「業務を軽くするから復帰してほしい」と主張し、打ち切りを推進する一方で、実態は負担が大きい業務に戻させようとしているなど。
- 結局悪化する可能性があるため、医師の意見が最優先されるべき。
診断書不備や検査不足
- 被災者自身が症状を訴えても、医師が詳しく診断書に書いてくれない、検査を省略されたなどで認定が不十分に。
- 弁護士や専門医に相談し、追加検査やセカンドオピニオンを得ることで打ち切りに異議を唱える事例が想定される。
対応策:異議申立・追加書類
審査請求・再審査請求
- 打ち切り決定に不服がある労働局に審査請求を行う。棄却されたら厚生労働省の労働保険審査会に再審査請求で争う。
- 弁護士や社労士がサポートし、医証や検査結果を補強して主張することも考えられる。
追加検査や専門医の意見書
一般的な病院で「症状固定」と言われても、専門医に再度診てもらい、「まだ回復の見込みがある」など別の所見を得ることで監督署の判断を覆せる可能性が上がる。
会社との交渉
会社が早期復帰を迫り、打ち切りを推進する場合でも、弁護士が代理人となって会社に過度な圧力をやめさせるよう交渉する。回復が不十分なら被災者の健康が最優先。
打ち切り後の生活設計
傷病補償年金や障害補償給付への移行
- 休業補償給付が打ち切られても、傷病等級に該当するなら傷病補償年金が支給される。
- 症状固定した結果、後遺障害が残れば障害補償給付(年金・一時金)に移行する。
他の社会保障・会社の補償
- 労災保険だけではカバーしきれない損失(精神的苦痛、将来の逸失利益など)について、会社の安全配慮義務違反を追及した損害賠償請求を検討することも。
- 休業補償給付が終わった後、傷病手当金(健康保険)に移行できるかなど、他制度との関係も合わせて考える。
弁護士に相談するメリット
- 打ち切り理由の妥当性チェック
弁護士が監督署の打ち切り理由を精査し、実態に合わないと判断すれば、医師の追加意見や新たな検査結果を提出して異議を申し立てる。 - 会社の圧力への交渉代理
会社が「もう復帰できる」と一方的に主張する場合、医師の意見が優先と法的根拠を示し、安全配慮義務を会社に促す交渉を弁護士が行う。 - 不服申立手続きの書類作成
審査請求・再審査請求の際、適切な検査結果や診断書の取り寄せ、主張内容をまとめた意見書を弁護士が作成し、覆る可能性を引き上げる。 - 傷病補償年金や障害補償給付との連携
休業補償が打ち切られた後も、重度傷病なら傷病補償年金へ移行するなど、シームレスに給付を受けられるよう助言を行う。
後遺障害が残れば障害補償給付の適正等級を狙ってサポートする。 - 総合的な損害賠償交渉
打ち切り後の生活が成り立たないほど重い傷病なら、会社に安全配慮義務違反があると主張して逸失利益や慰謝料を求める道も。弁護士が示談・訴訟を一貫して担う。
まとめ
休業補償給付は、労災の被災労働者にとって、治療中の経済的負担を和らげる重要な支えです。しかし、症状固定や就労可能と判断された時点で、休業補償給付は打ち切りとなるため、まだ治療を継続したいと思っていても「給付が止まってしまう」不安が発生します。
- 1年6か月を目安に打ち切られるケースもあり、その後は傷病補償年金や障害補償給付への移行を検討。
- 打ち切り理由に納得できない場合、審査請求・再審査請求で異議を申し立てることが可能。
- 会社の指示や監督署の判断に疑問があるなら、弁護士などの専門家へ相談し、追加検査や意見書で覆す道を探る。
休業補償給付が突然止まり、収入ゼロになって生活が困窮する事態を避けるためにも、医師の診断内容や実際の就労可能性を確認し、もし納得いかない打ち切り通知が来たら速やかに異議申立をご検討してください。
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