事故による「醜状障害」(傷跡)の労災認定と後遺障害等級
はじめに
労働災害で顔や首、腕、脚などに傷跡が残った場合、その傷跡は「醜状障害」として労災保険の後遺障害認定の対象となることがあります。醜状障害は、関節が動かしにくい、手足がしびれるといった機能障害とは異なり、外見に残った傷跡を評価する障害です。
傷跡は、身体的な問題だけでなく、人前に出ることへの不安、仕事や転職への影響、日常生活上の精神的負担にもつながります。もっとも、労災の等級認定では、単に「目立つ」「つらい」という事情だけで決まるわけではありません。傷跡の部位、大きさ、長さ、陥没の有無、人目につく程度などを、認定基準に沿って確認する必要があります。
本記事では、醜状障害の労災認定基準、等級の考え方、申請時に準備すべき資料、労災給付とは別に損害賠償請求を検討できる場面について、一般の方にも分かりやすく解説します。
よくある質問
Q1 顔の傷跡は、どのような場合に後遺障害として認定されますか。
顔の傷跡は、治療を続けてもこれ以上大きく改善しない状態となった後、一定の大きさや長さがあり、人目につく程度以上であれば、労災の後遺障害として認定される可能性があります。
たとえば、顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕が残った場合や、10円銅貨大以上の組織陥没が残った場合には、「外貌に著しい醜状を残すもの」として第7級の12が問題となります。また、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものは第9級の11の2、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕は第12級の14が問題となります。
なお、現在の労災認定基準では、女性であることだけを理由に男性より高い等級になるという扱いは採られていません。性別ではなく、傷跡の部位・大きさ・長さ・見え方などに基づいて判断されます。
Q2 腕や脚の傷跡も、後遺障害認定の対象になりますか。
腕や脚の傷跡も、後遺障害として評価されることがあります。労災の認定基準では、上肢の露出面はひじ関節以下、下肢の露出面はひざ関節以下とされています。
上肢の露出面に、てのひらの大きさの醜いあとが残る場合は第14級の3、下肢の露出面に、てのひらの大きさの醜いあとが残る場合は第14級の4が問題となります。これ以外の部位、たとえば胸部、腹部、背部、上腕、大腿などの傷跡についても、範囲や部位によっては準用等級として評価されることがあります。
Q3 醜状障害で等級認定を受けた場合、どのような補償を受けられますか。
労災で後遺障害等級が認定されると、等級に応じて障害補償給付の対象となります。支給内容は、認定された等級や給付基礎日額などによって変わります。具体的な金額は、事故前の賃金額や等級によって異なるため、「第7級なら一律に約○万円」といった形で説明することは適切ではありません。
また、会社に安全配慮義務違反などの法的責任が認められる場合には、労災給付とは別に、会社に対する損害賠償請求を検討できることがあります。この場合、慰謝料や逸失利益などが問題となります。ただし、損害賠償が認められるか、どの範囲まで請求できるかは、事故原因、会社の安全管理体制、職種、傷跡による仕事への影響などによって異なります。
解説
醜状障害とは何か
醜状障害とは、事故や火傷、裂傷などによって皮膚や組織に傷跡が残り、外見上の障害が生じている状態をいいます。労災保険では、手足の機能障害や神経症状だけでなく、外見に残る障害も、一定の基準を満たす場合には後遺障害として評価されます。
特に、頭部、顔面部、頸部のように日常生活で人目につきやすい部分の傷跡は、「外貌の醜状障害」として評価されます。ここでいう外貌とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢・下肢以外の日常露出する部分をいいます。
醜状障害の主な認定基準
醜状障害の等級認定では、傷跡の面積だけでなく、部位、長さ、組織陥没の有無、人目につく程度、頭髪や眉毛などで隠れるかどうかが問題となります。主な基準は次のとおりです。
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区分 |
主な基準 |
等級 |
注意点 |
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外貌に著しい醜状を残すもの |
頭部:てのひら大以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損 |
第7級の12 |
いずれも、人目につく程度以上であることが必要です。 |
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外貌に相当程度の醜状を残すもの |
顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕 |
第9級の11の2 |
人目につく程度以上であることが必要です。 |
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外貌に醜状を残すもの |
頭部:鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損 |
第12級の14 |
眉毛や頭髪などで隠れる部分は、原則として醜状として扱われません。 |
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上肢の露出面の醜いあと |
ひじ関節以下(手部を含みます。)に、てのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
第14級の3 |
露出面に残る傷跡が対象です。 |
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下肢の露出面の醜いあと |
ひざ関節以下(足背部を含みます。)に、てのひらの大きさの醜いあとを残すもの |
第14級の4 |
露出面に残る傷跡が対象です。 |
2個以上の瘢痕や線状痕が隣接している場合や、相まって1個の傷跡と同程度以上の醜状を示す場合には、面積や長さを合算して判断されることがあります。また、火傷が治った後の黒褐色変色や色素脱失による白斑なども、永久的に残り、人目につく程度以上であれば、醜状として扱われることがあります。
認定で特に重要になるポイント
- 治療後も傷跡が残っていること:一時的な赤みや腫れではなく、治療を終えても残る傷跡であることが前提です。
- 部位を正確に整理すること:顔面部、頭部、頸部、上肢・下肢の露出面、その他の部位では評価の枠組みが異なります。
- 大きさ・長さを客観的に示すこと:写真だけでなく、診断書や測定記録で、瘢痕の面積や線状痕の長さを明確にしておくことが重要です。
- 人目につく程度を示すこと:頭髪、眉毛、衣服などで隠れるかどうか、通常の距離から確認できるかどうかが問題になります。
- 陥没や変色の有無を記録すること:組織陥没、凹凸、色素沈着、色素脱失などがある場合には、その状態が分かる資料を残しておくことが重要です。
申請手続と準備すべき資料
労災の後遺障害認定を受けるには、通常、治療が終了し、症状が固定した段階で、所轄の労働基準監督署に障害補償給付の請求を行います。醜状障害では、傷跡の状態を客観的に示す資料が特に重要です。
準備しておきたい資料は、主に次のとおりです。
- 医師の診断書・意見書
- 傷跡の部位、長さ、面積、陥没の有無などを記載した資料
- 傷跡の写真(正面、左右、近接、全体像など、状態が分かるもの)
- 定規やメジャーを添えた写真
- 治療経過が分かる診療録、画像資料、手術記録など
- 仕事や日常生活への影響を整理したメモ
写真は、明るさや角度によって印象が大きく変わることがあります。認定の場面では、傷跡の状態を過度に強調するのではなく、通常の見え方が分かる写真と、寸法が分かる写真をそろえることが大切です。
認定結果に不服がある場合には、労災保険の不服申立て手続を検討します。単に「納得できない」と主張するだけではなく、どの基準に照らして、どの傷跡がどの等級に該当するのかを具体的に整理する必要があります。
労災給付とは別に損害賠償請求を検討できる場合
労災保険は、業務上の事故による被害を一定の範囲で補償する制度です。一方で、事故について会社に安全配慮義務違反などの責任がある場合には、労災給付とは別に、会社に対する損害賠償請求を検討できることがあります。
たとえば、危険な機械に安全装置がなかった、保護具を適切に支給していなかった、作業手順や教育が不十分だった、転倒・転落を防ぐ措置が不十分だった、といった事情がある場合には、会社の責任が問題となります。
損害賠償では、治療費、休業損害、後遺障害による慰謝料、将来の収入への影響などが問題となります。ただし、醜状障害による逸失利益は、職種、業務内容、接客の有無、転職への影響、年齢、実際の減収の有無などによって判断が分かれます。顔に傷跡が残ったからといって、常に高額な逸失利益が認められるわけではありません。
そのため、損害賠償請求を検討する場合には、事故原因の証拠、会社の安全管理体制、傷跡の写真、診断書、仕事への具体的影響を整理することが重要です。
弁護士に相談するメリット
1 認定基準に沿った証拠整理ができます
醜状障害では、傷跡の見た目だけでなく、認定基準に沿って、部位・大きさ・長さ・陥没・人目につく程度を整理する必要があります。弁護士に相談することで、どの資料を準備すべきか、診断書にどのような事項を記載してもらうべきかを検討しやすくなります。
2 不服申立ての見通しを検討できます
認定結果が実際の傷跡の状態に見合っていないと考えられる場合には、不服申立てを検討します。弁護士は、認定基準との対応関係を整理し、追加資料の必要性や主張の組み立てを検討します。
3 会社に対する損害賠償請求もあわせて検討できます
労災給付だけでは慰謝料などが十分に補償されないことがあります。会社に安全配慮義務違反が認められる可能性がある場合には、労災の手続と並行して、損害賠償請求の可否や請求内容を検討することが重要です。
まとめ
- 労働災害で顔や首、腕、脚などに傷跡が残った場合、醜状障害として労災の後遺障害認定を受けられる可能性があります。
- 外貌の醜状障害は、第7級の12、第9級の11の2、第12級の14を中心に判断されます。上肢・下肢の露出面の傷跡は、第14級の3又は第14級の4が問題となります。
- 現在の労災認定基準では、性別だけを理由に等級を変える扱いは採られていません。部位、大きさ、長さ、人目につく程度などが重要です。
- 申請では、診断書、写真、測定記録、治療経過資料を整えて、認定基準との対応関係を分かりやすく示すことが大切です。
- 会社に安全配慮義務違反がある場合には、労災給付とは別に、損害賠償請求を検討できることがあります。
傷跡が残った場合、早い段階から写真や診断書などの資料を残しておくことが重要です。等級認定や損害賠償請求に不安がある方は、労災事件に詳しい弁護士にご相談ください。
引用法令・参照資料
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