機械操作事故(プレス機・フォークリフトなど):重篤事故防止のためのポイントと法的対応
はじめに
工場や倉庫などで使用されるプレス機・フォークリフト・コンベア装置などの「産業用機械」は、効率よく大量生産・搬送を実現する一方、操作ミスや安全装置の不備などが原因で重大な労災事故につながりやすいリスクをはらんでいます。
とりわけプレス機は、金属の加工や成型工程で不可欠な設備である一方、「金型に手を入れた際に挟まれる」「安全装置が動作せず、指や腕を切断・粉砕骨折する」といった痛ましい事故が後を絶ちません。フォークリフトでは、狭い庫内での荷物運搬や高所ラックへの積み上げ作業において、車体の転倒や接触事故が多発しがちです。
本稿では、機械操作事故(プレス機・フォークリフトなど)の典型的な発生要因、労働安全衛生法での規定や会社側の対策義務、そして実際に事故が起きた際の労災手続きと法的責任について解説します。特に、重篤事故や死亡事故が発生しやすい領域ですので、正しい知識と防止策を知ることが欠かせません。
Q&A
まず、機械操作事故に関してよく寄せられる質問と回答をQ&A形式でまとめます。詳細は後述の「3 解説」で解説します。
プレス機で手や指を挟まれた場合、労災として認められますか?
はい。通常は「業務災害」として扱われ、労灿保険が適用されます。安全装置がなかったり、誤作動を起こしたりした場合は、会社の安全配慮義務違反が強く疑われるケースも多いです。
フォークリフトの運転中に起きた事故も労災になりますか?
フォークリフトでの作業が業務目的であり、会社の指示や管理下にあれば業務上の事故として労災認定されます。運転者が無免許や違反操縦をしていた場合でも、会社の管理責任が問われる場合が少なくありません。
安全装置を外して操作していたら、労災は認められないのでしょうか?
労災そのものは認められる可能性が高いです。ただし「労働者に重大な過失があった」とみなされれば、会社との損害賠償請求時に過失相殺が適用されるリスクがあります。
機械メーカーの責任は問えますか?
構造上の欠陥や初期不良などが原因で事故が起きた場合、製造物責任(PL法)が問われる可能性があります。ただし現場の設置・使用状況や保守管理体制も絡むため、必ずしもメーカーが全責任を負うわけではありません。
重傷を負った後、後遺障害が残った場合どんな補償が受けられますか?
労災保険の障害補償給付(等級に応じて年金または一時金)が受けられます。加えて、会社に安全配慮義務違反があれば、慰謝料や逸失利益などの民事賠償請求が認められることがあります。
解説
ここからは、機械操作事故の代表例である「プレス機事故」と「フォークリフト事故」を中心に、安全上の問題点や事故発生時の対処法、会社の責任について詳しく見ていきます。
プレス機事故
事故の典型例
金型への材料セット時に手や指を挟む
- 作業者が材料をセットする際、プレス機が誤動作を起こす、あるいは手動操作のタイミングを誤り、挟まれる事故。
- 指や手首を切断・粉砕骨折するなど重篤な結果となりやすい。
安全装置の無効化・取り外し
- 安全柵やセンサーを「作業効率を上げるため」という理由で外してしまう事例。
- 手を入れてもプレスが稼働してしまい、重大事故に直結。
急なエラー・再起動
- 機械が故障やトラブルで止まった後、エラー解除した際に突然動作が復帰し、挟まれる。
- ソフトウェアのバグや電気配線の不具合が原因になる場合もある。
労働安全衛生法上の規定
- プレス機械等安全規則
プレス機械に対する具体的な安全基準を定めており、安全柵や光線式安全装置(ライトカーテン)の設置、非常停止装置の装備などが義務づけられている。 - 定期検査・点検
使用者はプレス機の定期自主検査を行い、不備があれば即座に是正しなければならない。
会社の責任
プレス機事故が起きた場合、会社が安全装置を設置していなかった、あるいは作業者への安全教育を怠っていた、整備不良を放置していたなどの過失が認められれば、安全配慮義務違反となる。
- 被災者は労災保険の給付を受けつつ、逸失利益・慰謝料などを会社に損害賠償請求できる可能性が高い。
- 労働基準監督署の調査で重大な違反が発覚すれば、是正勧告や書類送検など、行政処分・刑事処分の対象になり得る。
フォークリフト事故
事故の典型例
- 荷崩れ・落下事故
フォークに積載した荷物が過重・不安定な状態で走行し、転倒して作業者や周囲の人を巻き込む。 - 接触・衝突事故
- 狭い通路や見通しの悪い場所での運転ミス、スピード出し過ぎによる衝突。
- 倉庫内で歩行者をひいてしまうケースも多い。
- 車体の転倒
- カーブを高速で曲がる、荷物を高い位置まで上げたまま走行するなどで重心が崩れて横転。
- 運転者がシートベルトをしておらず、下敷きになる惨事に至ることもある。
– 必要な免許・特別教育
フォークリフトを運転する場合、最大荷重1トン以上なら技能講習修了証、1トン未満なら特別教育が必要。会社は無資格者に運転させてはいけない。
- 運転者の選任と管理
使用者は技能講習や教育を受けた作業者を適切に配置し、日々の点検や速度制限の指示を行う義務がある。
会社の責任
- 車両系機械の管理不備
定期点検を実施せず、ブレーキやステアリング系統に不具合があったまま使用していた場合など、整備不良が会社の過失となる。 - 無資格運転の黙認
- 従業員がフォークリフト運転資格を持たないのに指示する、または黙認していた場合、使用者責任は重大。
- 作業環境の不備
倉庫内の通路が狭すぎる、照明不足や荷物が通路にはみ出しているなどの環境が原因で事故が起きれば、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性が高い。
事故発生時の対応フロー
- 救護・応急処置
怪我の程度が重い場合はすぐに119番通報。機械の稼働を停止し、二次災害を防ぐ。 - 会社への報告・監督署への連絡
死亡や4日以上の休業を要する重傷事故なら、労働者死傷病報告を提出する義務。 - 労災保険手続き
ケガの治療費(療養補償給付)や休業中の賃金補償(休業補償給付)を受けるため、被災者や会社が様式第5号等を作成し、労働基準監督署に提出。 - 原因調査・再発防止策
プレス機の安全装置やフォークリフト運転者の資格、スピード管理、作業環境などを総点検し、改善を実施。 - 損害賠償問題
会社の安全配慮義務違反が疑われる場合は、被災者が弁護士と相談の上、慰謝料や逸失利益を請求。裁判所が会社の責任を認める判例も多数存在。
安全対策・会社が取るべき具体策
プレス機対策
- 光線式安全装置(ライトカーテン)の導入
- 両手操作式スイッチで作業者が手を挟みにくい設計
- 安全柵・ガードの装着を厳守し、外さないように運用ルール化
- 定期点検・自主検査の徹底と記録化
フォークリフト対策
- 運転資格・教育の徹底
- 速度制限・一時停止ルールの設定と監視
- 荷物の積載基準を明確化し、過重積載を禁止
- 通路のレイアウトを見直し、見通しの悪い箇所にミラー設置・明るい照明
作業手順書と安全教育
- 機械操作ごとの作業手順書を作成し、新人からベテランまで確実に把握させる
- 朝礼・定期教育などで安全意識を共有し、ヒヤリ・ハット情報を集約
- 忙しさを理由に安全装置を外すなどの違反行為には厳正対処する。
弁護士に相談するメリット
- 事故直後の証拠保全と事実整理
会社が原因を隠蔽しようとするケースや、労働者側の過失を一方的に強調するケースもあります。弁護士が早期に関与することで、現場写真・マニュアル・整備記録などの証拠を確保し、会社の安全配慮義務違反を的確に主張できます。 - 労災保険申請から不支給時の異議申立まで
労働基準監督署が不支給を決定することもあり得ます。弁護士は審査請求・再審査請求の手続きに慣れており、適切な書類作成・追加証拠の収集をサポートし、認定を勝ち取る可能性を高めます。 - 会社との損害賠償交渉
労災保険給付だけでは足りない逸失利益や慰謝料などを会社に請求する際、弁護士が交渉を代行。冷静かつ専門的な視点で、被災者の生活再建に十分な補償を引き出せるよう尽力します。 - 製造物責任(PL法)の検討
機械本体や安全装置の設計不良・初期不良が原因なら、メーカーに対してPL法に基づく責任追及を行うケースもあります。弁護士が事故原因調査や技術者の意見書を収集することで、複合的な責任を整理することが可能です。 - 再発防止へのアドバイス
企業から依頼を受けた弁護士が、法的リスクの観点から安全管理体制を点検し、就業規則やマニュアルの改訂を提案するなど、予防策を助言することも増えています。
まとめ
プレス機・フォークリフトなどの機械操作事故は、製造業や物流業にとって重大な労災リスクの一つです。
- プレス機事故では指の切断や粉砕骨折、場合によっては死亡例も報告されるほど深刻。
- フォークリフト事故では荷崩れや転倒、歩行者との衝突が多発し、やはり重傷に直結しがち。
こうした事故が起こるたびに浮上するのが、会社の安全配慮義務や労働安全衛生法違反の問題です。安全装置が取り付けられていない、定期点検を怠った、無資格者に運転させていた――いずれも会社の過失が明確になれば、被災者は労災保険給付を受けられるだけでなく、追加の損害賠償を請求できる可能性が高いです。
逆に「作業者自身が安全装置を故意に外していた」「無断で危険な行為を行っていた」と認定されると、給付制限や過失相殺が適用される場合もあるため、状況の詳細な調査が欠かせません。
いずれにしても事故直後に正しい対応を行い、証拠を集め、専門家(弁護士・社労士)に相談することが重要です。事故による被害を最小限にし、適切な補償を得るとともに、再発防止策を講じることが求められます。
万が一、自分や家族が機械操作事故で重傷・後遺障害を負った場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所などの労災に詳しい専門家へ早めに相談し、適切な手続きと補償を確保するようにしてください。
解説動画のご紹介
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