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【精神疾患】パワハラや長時間労働による「うつ病」の労災認定基準と証拠集め

はじめに

職場におけるハラスメントや長時間労働がきっかけとなり、うつ病を発症する労働者は少なくありません。こうした精神疾患が労働災害として認定されるには、業務と疾患の発症との因果関係が重要となります。

本解説では、厚生労働省が定める心理的負荷による精神障害の認定基準を中心に、うつ病が労災認定される条件、必要な証拠、申請手続、さらには会社に対する損害賠償請求の可能性について詳しく説明いたします。

労災認定を受けるためには、客観的な証拠の収集と適切な法的サポートが大切です。

Q&A

Q1. パワハラが原因でうつ病になった場合、必ず労災認定されますか?

パワハラが認められるだけでは不十分です。

厚生労働省の認定基準では、「心理的負荷の強度」が「強」以上であり、かつその負荷が「業務上の出来事」と認定される必要があります。

典型的なパワハラ(人格否定的な言動、過度な叱責など)は強度の高い負荷として評価されることがあり得ますが、個別の事情を総合判断した結果、「中」程度と判断される場合もあります。

Q2. 長時間労働でうつ病になった場合の労災認定基準は何ですか?

業務による疲労や心理的ストレスが蓄積され、精神疾患を発症した場合は、認定基準に基づき判断されます。

月80時間以上の超過労働が継続する場合、心理的負荷の強度が「強」と評価されやすいです。ただし、労働時間のみでは判断されず、業務内容、職場環境、個人の適応能力も考慮されます。

Q3. うつ病で労災認定を受けるために必要な証拠は何ですか?

医学的証拠として診断書や治療記録、業務関連性の証拠として勤務表・メール・日記、心理的負荷の証拠として証言やハラスメント記録が必要です。これらの証拠は可能な限り客観的で、信頼性の高いものが重視されます。

証拠が不十分な場合、労災認定を受けられない可能性があります。

解説

心理的負荷による精神障害の認定基準の概要

厚生労働省が2023年9月に改正・公表した「心理的負荷による精神障害の認定基準」は、職場で生じた心理的負荷が原因で精神疾患を発症した場合の判断基準を定めています。この基準に従い、労災保険給付の可否が決定されます。

認定基準では、「業務に関連した心理的な出来事」が存在し、その心理的負荷が「強」以上であり、医学的に当該疾患の発症が認められることが要件となります。心理的負荷の強度は、事業主の工作や個人の適応能力を考慮した「平均的な労働者」の視点で判断されます。

また、認定基準では複数の心理的負荷が蓄積される場合、それらの合算により負荷の強度を総合的に評価する仕組みも用意されています。

パワハラ・人間関係の負荷と認定要件

パワハラは心理的負荷が「強」と判断されやすい典型的な例です。

上司からの人格否定的な言動(「おまえは無能だ」「消えてしまえ」など)、過度な叱責、同僚からのいじめ・無視、過度な量・難度の業務を強制されることなどが該当します。

ただし、指導や注意、通常程度の業務割当は、それだけでは「強」と判定されません。重要なのは、当該労働者の立場、職場での地位、行為の頻度・期間を総合的に判断することです。

また、パワハラの事実が認定されるためには、可能な限り客観的な証拠が求められます。メール、録音、日記、第三者の証言、会社の相談記録などが有力な証拠となります。

長時間労働・過度な業務と負荷評価

月80時間以上の超過労働が継続する場合、心理的負荷が「強」と判断される可能性が高いです。また、月60時間以上80時間未満の超過労働であっても、業務の質的負担(責任の重さ、判断の困難性)が高ければ「強」と評価されることがあります。

認定基準では、単に労働時間だけでなく、業務内容の困難さ、顧客対応の負荷、ミスが許されない状況など、定性的な要素も考慮されます。

したがって、同じ月80時間の超過労働であっても、単純作業の場合と高度な判断が必要な業務では、負荷の強度評価が異なる可能性があります。

うつ病の医学的判断と発症因果関係

精神疾患が労災認定されるためには、医学的に当該疾患の発症が業務上の心理的負荷により生じたことが必要です。

診断書の作成医師には、当該疾患がいつ頃から発症し、どのような症状を呈しているかの詳細な記載が求められます。

労災認定機関は、医学的見地から業務と疾患の因果関係を評価します。特に、発症前の業務状況(負荷の大きさ、期間)と、発症時期の関連性が重要な判断要素となります。

また、既往の精神疾患や個人的なストレス要因がある場合、それらが発症に寄与したのか、業務上の負荷が主因なのかについても検討されます。

うつ病の労災認定に必要な証拠と集め方

労災認定を勝ち取るためには、複合的で信頼性の高い証拠の構築が不可欠です。

医学的証拠として、医師による診断書(発症時期、症状の詳細、業務との関連性について医学的見地からの記載を含む)、初診記録、治療経過が必要です。

業務関連性の証拠として、勤務表、タイムカード、給与明細(超過労働の事実)、業務メール、ビジネスチャット、業務日報などが有力です。

心理的負荷の証拠として、ハラスメント内容を記載した日記やメモ(できるだけ発症前に作成されたもの)、加害者の言動の録音や動画、会社の相談窓口への報告記録、産業医の記録などが活用できます。さらに、同僚の証言書なども補強証拠として機能します。

証拠集めの際は、できるだけ早期に(相談可能な弁護士の助言を得ながら)、客観的で改ざん疑いのないものを優先的に保全することが重要です。

労災認定申請の手続と流れ

うつ病で労災認定を受けるプロセスは、概ね以下のとおりです。

まず、治療を受けている医療機関で医師に相談し、発症が業務上の心理的負荷によるものであることが医学的に支持できるかを確認します。

次に、労働基準監督署に「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式5号)を提出します。この際、医師の診断書が必須です。提出時には、業務環境の詳細、パワハラやストレスの具体的内容、発症までの経緯をできるだけ詳しく記入し、証拠資料を添付します。

その後、労働基準監督署による調査が行われ、認定基準に基づき判断されます。調査では、会社への聞き取り、事業場の視察、医学専門家の意見聴取などが実施される場合があります。

認定または不認定の決定には、提出から数か月を要することもあります。不認定の場合、労働者請求による社会保険審査請求や行政訴訟の道も開かれています。

うつ病での給付内容と損害賠償請求

労災認定を受けると、療養給付(医療費の全額補償)、休業補償給付(休業中の給与の80%、原則として給付開始から1年6か月間)、傷病補償年金(長期療養の場合)などが受給できます。

ただし、労災保険給付は治療費と休業補償に限定されており、精神的苦痛に対する慰謝料や逸失利益の全部は補償されません。

そのため、会社に対する損害賠償請求により、労災給付では補償されない損害を回復することが重要となります。

パワハラが認定された場合、会社は債務不履行責任(職場環境配慮義務違反)および不法行為責任を負う可能性があります。損害賠償請求では、労災給付とは別に、慰謝料(一般的に50万円から数百万円)、逸失利益(休業期間の実給与と労災給付の差額など)、治療費の自己負担分などの請求が可能です。

労災認定と損害賠償請求は並行して進めることができ、むしろ労災認定が得られると、会社の過失が認定されやすくなり、損害賠償請求も有利になる傾向があります。

弁護士に相談するメリット

専門的法的判断による認定可能性の評価

労災認定の可能性を最大化するためには、個別の事情を踏まえた専門的な法的判断が必須です。

パワハラや長時間労働の事実が必ずしも認定基準の「強」の負荷に該当するとは限らず、個別の判断が必要となります。

弁護士は、蓄積された証拠を認定基準に照らし合わせ、認定の可能性を客観的に評価し、認定可能性の高い主張立てをサポートします。

また、医師とのコミュニケーションを円滑にし、医学的見地から業務との因果関係が適切に診断書に記載されるよう、専門的なアドバイスを提供することも可能です。

証拠の収集・保全と効果的な主張立て

労災認定では、証拠の質と量が決定的な影響を与えます。

弁護士のサポートにより、どのような証拠を優先的に集めるべきか、既存の証拠をどのように活用すべきかについて、戦略的なアドバイスが得られます。

特に、会社から証拠の廃棄や隠蔽を防ぐための適切な対応、公式な相談窓口への報告を通じた証拠保全、信頼性の高い医学的意見書の取得など、細かなプロセスを専門家がサポートすることで、認定される可能性が大きく向上します。

不認定時の異議申立と訴訟対応

万が一労災認定が得られなかった場合、労働者請求による社会保険審査請求や行政訴訟により、認定を求めることができます。

これらの手続は、労基署の判断に対する重要な異議申立の道であり、新たな証拠提出や法的主張の再検討が可能になります。

弁護士は、不認定理由の分析、不足していた証拠の補完、新たな法的主張の構築により、審査請求や訴訟での勝訴可能性を高めるサポートを行います。

まとめ

うつ病の労災認定は、単なる医学的診断ではなく、業務と疾患の因果関係について、認定基準に基づいた厳密な法的判断が要求されます。本解説では、以下の重要ポイントをまとめました。

  1. 認定基準の理解:心理的負荷の強度が「強」以上であり、かつ当該負荷が「業務上の出来事」であることが必須要件です。パワハラや長時間労働は典型的に強度が高い負荷として評価されることが多いですが、個別事情により変わります。
  2. 証拠の重要性:医学的証拠、業務関連性の証拠、心理的負荷の証拠を複合的に構築することで、認定可能性が大幅に向上します。証拠集めは早期かつ戦略的に実施することが重要です。
  3. 損害賠償請求との相乗効果:労災認定と損害賠償請求を並行して進めることで、経済的補償の最大化が実現します。労災給付では補われない慰謝料や逸失利益についても、会社に対する請求が可能です。
  4. 専門的サポートの価値:認定基準の解釈、証拠戦略、医学意見書の活用、不認定時の異議申立など、複雑な手続全体を弁護士がサポートすることで、労災認定を受ける可能性が大きく向上します。

当事務所では、医学的見地と法的見地から、総合的なサポートを行いますので、お一人で悩まずにご相談ください。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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