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【精神疾患】適応障害やPTSDは労災認定される?具体的な判断基準

はじめに

職場での人間関係の悪化、配置転換、または重大な事故の目撃などに起因して、適応障害やPTSDを発症することがあります。これらの疾患が労働災害として認定されるためには、業務と疾患発症の因果関係が厳密に判断される必要があります。

本解説では、適応障害とPTSDそれぞれの労災認定基準、判断プロセス、必要な医学的証拠について詳細に説明します。また、これらの疾患が認定された場合の給付内容と、会社に対する損害賠償請求の可能性についても触れます。

Q&A

Q1. 適応障害は労災認定されやすいですか?

適応障害は、特定の心理的ストレッサー(業務上の出来事)に直接反応して発症する疾患です。労災認定基準では、ストレッサーが「業務上の出来事」に該当し、その心理的負荷が「強」と判断されることが要件となります。

ただし、適応障害は発症までの時間が短い場合が多く、その分、ストレッサーと発症の因果関係が比較的明確に認定されやすい傾向があります。

Q2. PTSDが認定されるための条件は何ですか?

PTSDが労災認定されるには、極度の恐怖や無力感を感じさせるような極めて異常な業務上の出来事(事故の目撃、重傷者の対応、死亡事故への関与など)が存在し、その出来事に対する通常を超えた反応としてPTSDが発症することが必要です。単なる業務ストレスではなく、「生死に関わる出来事」など極度の出来事が要件となる傾向にあります。

Q3. 適応障害とPTSDの診断が違う場合、労災認定はどうなりますか?

労災認定機関は、医学的な疾病名そのものではなく、業務上の心理的負荷が原因で精神疾患が発症したという因果関係を重視します。

適応障害と診断された場合は、通常の心理的負荷の認定基準が適用され、PTSDと診断された場合は、より極度な出来事が存在することが評価の基準になります。疾患名の判断よりも、その背景となった業務上の出来事の性質が重要です。

解説

適応障害とPTSDの医学的定義と労災法上の位置付け

適応障害とは、明確に特定できるストレッサーに対する過剰な適応困難として生じる精神疾患です。診断統計手帳(DSM-5)では、ストレッサー発症から3か月以内に症状が現れ、そのストレッサーが除去されると症状が消失することが特徴とされています。

一方、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、戦闘地域での戦闘経験、重大な事故、死亡の脅威を感じさせるような極度の出来事を経験した後に、そうした出来事を繰り返し思い出す、悪夢を見る、その出来事を思い出させる刺激を避けるなどの症状が生じる疾患です。労災法上、これらの疾患が認定されるには、まず「業務上の出来事」として分類される必要があります。

適応障害の場合、ストレッサーとなる業務上の出来事の心理的負荷が「強」以上であることが求められ、PTSDの場合は、その出来事が通常の労働者にとって極度の恐怖や無力感を生じさせるものであることが求められます。

適応障害の労災認定基準と判断のポイント

適応障害が労災認定されるためには、認定基準に基づき、業務上の心理的ストレッサーが「強」以上の強度を持つことが必要です。適応障害の場合、パワハラ、過度な叱責、職場いじめ、配置転換後の業務環境の急激な変化など、明確に特定できるストレッサーが存在することが評価しやすい点となります。

ただし、ストレッサーの強度が「中」程度と判断される場合(例えば、通常程度の業務指導、人事異動に伴う職務内容の変更など)は、認定が見送られる可能性があります。診断については、医師の診断書にストレッサーとなった具体的な業務上の出来事と、その出来事と症状発症の時間的関連性が明確に記載されることが重要です。

また、適応障害は比較的早期に診断されることが多いため、ストレッサーと発症の因果関係を立証する観点からは有利な点があります。

PTSD認定の厳格な基準と「極度の出来事」の判断

PTSDが労災認定されるための基準は、適応障害よりも厳格です。

認定基準では、「生死に関わる出来事」または「極度の恐怖や無力感を感じさせるような出来事」であることが強調されています。具体的には、以下のような出来事が該当する可能性があります。

  • 労働者自身または同僚が重大な事故で重傷を負った、死亡した、その事故に直接関与した、または目撃した
  • 労働者が生命の危険にさらされるような環境で業務を行っていた
  • 顧客の死亡や重大事故に直接対応した
  • 重大犯罪の被害者または目撃者となった。

これらの出来事が存在することが前提となり、その上で、診断医による医学的なPTSD診断が必要となります。PTSDは適応障害よりも長期の症状継続が特徴であり、医学的な診断基準も厳密です。そのため、認定基準上の「極度の出来事」と医学的なPTSD診断の両方が揃って初めて労災認定される傾向があります。

医学的診断と労災認定基準のズレへの対応

実務上、医師が適応障害と診断した場合と、労災認定機関が判断する業務上の心理的負荷の強度の判断がズレることがあります。

例えば、医師は心理的ストレスの存在を認めても、認定基準上の「強」の負荷には至らないと判断される場合があります。逆に、医師の診断がPTSDでも、認定基準上の「極度の出来事」に該当しないと判断される場合もあります。このようなズレを最小化するためには、診断医と弁護士が協力し、医学的見地からのみならず、認定基準に合致した記載が診断書に盛り込まれることが重要です。

具体的には、ストレッサーとなった業務上の出来事を具体的に記載する、その出来事が通常の労働者にとって心理的負荷が「強」以上またはPTSDを生じさせうる「極度」のものであることを医学的観点から記載する、発症時期とストレッサーの時間的関連性を明確にするなどが必要です。

配置転換後の適応障害と職場環境の急変

配置転換後に適応障害を発症する事例は多くあります。新しい職場での人間関係の構築、未経験の業務への対応、職務内容の大幅な変更などが、心理的ストレッサーとなり得ます。ただし、通常の人事異動であれば、ストレッサーの強度が「中」程度と判断される傾向があります。

労災認定を勝ち取るためには、単なる配置転換ではなく、配置転換後に以下のような特別な負荷が存在したことを立証する必要があります。

  • 新職場で上司からの過度な叱責やハラスメントを受けた
  • 経験や能力を大きく超える業務を強制された、適切な教育研修が提供されずに放置された
  • 新職場での人間関係が著しく悪かった

これらの負荷が確認できれば、配置転換後の適応障害も「強」の負荷として認定される可能性が高まります。

重大事故への対応とPTSD発症の因果関係

労働現場での重大事故(労働災害による死亡事故、重傷者の発生など)に対応した労働者がPTSDを発症した場合、労災認定の可能性は比較的高いです。

特に、事故の直接的な対応者(応急対応、被害者の搬出、警察への報告など)や目撃者が該当します。重要なのは、以下の点を医学的に立証することです。

  • 対応または目撃した事故の内容が、通常の労働者にとって極度の恐怖や無力感を生じさせるものであったこと
  • 事故後に医学的にPTSDの診断基準を満たす症状が発症したこと
  • 症状と事故の時間的関連性が明確であること

さらに、事故への対応中に心身に危険が及んだ場合や、事故の影響が長期にわたって職場環境に残っている場合(同じ場所での業務継続など)は、負荷の強度評価がより有利になる傾向があります。

適応障害・PTSD認定時の給付と損害賠償請求

適応障害またはPTSDで労災認定を受けた場合、療養給付(医療費の全額補償)、休業補償給付(給与の80%相当額、給付開始から1年6か月間が原則)が支給されます。長期療養が必要な場合は、傷病補償年金の対象となることもあります。

ただし、これらの給付は治療費と休業補償に限定されており、精神的苦痛に対する慰謝料や逸失利益の全部は補償されません。そのため、会社に対する損害賠償請求により、労災給付では補われない損害を回復することが重要となります。

会社が職場環境配慮義務に違反してストレッサーを放置した場合、または重大事故への対応に適切な心理的サポートを提供しなかった場合、会社の過失が認定される可能性があります。

この場合、慰謝料、逸失利益(休業期間中の実給与と労災給付の差額など)が請求可能です。

弁護士に相談するメリット

ストレッサーと医学的診断の整合性を高める支援

適応障害またはPTSDの労災認定では、業務上の心理的ストレッサーが具体的に特定され、その強度が正確に評価されることが不可欠です。

弁護士のサポートにより、診断医と協力し、認定基準に合致した医学的見地からの診断書の作成をサポートすることで、認定可能性を高めることができます。

また、ストレッサーの事実を裏付ける証拠(メール、勤務表、同僚の証言など)を戦略的に収集し、診断医に提供することで、医学的判断の精度向上に貢献します。

厳格な認定基準への対応と主張立て

PTSDの認定基準は厳格であり、通常のストレスとは異なる「極度の出来事」の存在が求められます。弁護士は、当該事件が認定基準の「極度の出来事」に該当するかどうかを、法的観点から綿密に検討し、認定可能性のある主張立てをサポートします。

また、適応障害からPTSDへの診断変更が必要な場合など、医学的判断の見直しについても、弁護士から診断医への提言を通じてサポートすることが可能です。

不認定時の異議申立と訴訟対応

適応障害やPTSDの労災認定が得られなかった場合、労働者請求による社会保険審査請求または行政訴訟により、認定を求めることができます。弁護士は、不認定理由の詳細な分析、新たな証拠の発掘、医学的見地の再検討を通じて、審査請求や訴訟での勝訴可能性を高めるサポートを行います。

特に、認定基準の解釈について、先例や学説を踏まえた新たな法的主張の構築が可能です。

まとめ

適応障害やPTSDの労災認定は、疾患の医学的特性と認定基準の法的要件を正確に理解することが重要です。本解説では、以下の要点をまとめました。

  1. 疾患の特性と認定基準の違い:適応障害は明確なストレッサーへの過剰反応であり、心理的負荷が「強」以上の場合に認定される傾向がありますが、PTSDはより極度の「生死に関わる出来事」が必要です。
  2. 医学的診断の重要性:医師による診断書が重要であり、業務上の心理的ストレッサーと疾患発症の時間的関連性、因果関係が明確に記載されることが認定可能性を左右します。
  3. 証拠の戦略的活用:ストレッサーの事実を裏付ける客観的証拠(メール、勤務表、同僚の証言、日記など)を収集し、診断医に提供することで、医学的判断の精度が向上します。
  4. 損害賠償請求との組み合わせ:労災認定と会社に対する損害賠償請求を並行して進めることで、経済的補償を最大化できます。特に、適切な職場環境配慮義務に違反した会社に対しては、慰謝料や逸失利益の請求が可能です。

当事務所では、適応障害やPTSDの労災認定について、医学的見地と法的見地からの総合的なサポートを行っています。ご相談ください。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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