あまり知られていない? 労災保険の「特別支給金」とは何か
はじめに
仕事中の事故や通勤途中の災害で怪我や病気をした場合、労災保険(労働者災害補償保険)から各種の保険給付を受け取ることができます。休業補償給付や障害補償給付といった給付は広く知られていますが、これらの保険給付に加えて「特別支給金」が上乗せで支給されることをご存じでしょうか。
特別支給金は、被災した労働者やそのご遺族の生活を支えるために設けられた制度です。たとえば、休業中に支給される休業特別支給金は給付基礎日額の20%に相当し、休業補償給付の60%と合わせると給付基礎日額の80%が補償されることになります。また、後遺障害が残った場合には、障害等級に応じて最大342万円の障害特別支給金が一時金として支給されます。
さらに、特別支給金には「損害賠償の際に差し引かれない」という実務上の重要な特性があります。本稿では、特別支給金の制度概要、種類ごとの支給額、申請方法、そして損害賠償との関係について解説します。
Q&A
Q1. 特別支給金とは何ですか?通常の労災保険給付とは何が違うのですか?
特別支給金は、労災保険法第29条第1項に基づく「社会復帰促進等事業」の一環として支給されるものです。通常の保険給付(休業補償給付、障害補償給付など)が労災保険法上の法定給付であるのに対し、特別支給金は被災労働者やご遺族の福祉増進を目的とした上乗せ給付という位置づけになります。保険給付の請求と同時に申請できますので、忘れずに手続を行うことが大切です。
Q2. 特別支給金はどのくらいの金額が支給されますか?
支給額は特別支給金の種類によって異なります。たとえば、休業特別支給金は給付基礎日額の20%が休業4日目から支給されます。障害特別支給金は障害等級に応じて第1級342万円から第14級8万円までの一時金です。遺族特別支給金は一律300万円が支給されます。詳しい金額は本稿の解説部分をご確認ください。
Q3. 特別支給金は損害賠償で差し引かれますか?
差し引かれません。最高裁平成8年2月23日判決は、特別支給金が損害を填補する性質を持たないことを理由に、損害賠償額から控除すべきものではないと判断しています。そのため、特別支給金を受け取った上で、会社に対する損害賠償においても減額されることなく全額の賠償を請求することが可能です。
解説
1. 特別支給金の法的根拠
特別支給金の根拠法令は、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)第29条第1項です。同条は、政府が労働者の社会復帰の促進、被災労働者及びその遺族の援護等を図るために必要な事業を行うことができると定めています。
具体的な支給要件や支給額については、労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年労働省令第30号。以下「支給規則」といいます。)に規定されています。
【参照条文】
2. 通常の保険給付との違い
通常の保険給付は労災保険法に定められた法定の給付であるのに対し、特別支給金は社会復帰促進等事業として行われる福祉的な給付です。この法的性質の違いが、後述する損害賠償との関係で重要な意味を持ちます。
なお、特別支給金にも、保険給付と同様に譲渡・差押え・担保の禁止が定められており(支給規則第1条の2)、被災労働者の生活保障としての機能が守られています。
3. 特別支給金の種類と体系
特別支給金は、全部で9種類に分かれています。それぞれが対応する保険給付と連動しており、以下のとおり整理できます。
|
分類 |
特別支給金の名称 |
支給形態 |
根拠条文(支給規則) |
|
休業関連 |
休業特別支給金 |
都度支給 |
第3条 |
|
障害関連 |
障害特別支給金 |
一時金 |
第4条 |
|
障害関連 |
障害特別年金 |
年金 |
第6条 |
|
障害関連 |
障害特別一時金 |
一時金 |
第7条 |
|
遺族関連 |
遺族特別支給金 |
一時金 |
第5条 |
|
遺族関連 |
遺族特別年金 |
年金 |
第8条 |
|
遺族関連 |
遺族特別一時金 |
一時金 |
第9条 |
|
傷病関連 |
傷病特別支給金 |
一時金 |
第5条の2 |
|
傷病関連 |
傷病特別年金 |
年金 |
第10条 |
このうち、休業特別支給金、障害特別支給金、遺族特別支給金、傷病特別支給金の4つは、定額又は定率で支給されるものです。一方、障害特別年金、障害特別一時金、遺族特別年金、遺族特別一時金、傷病特別年金の5つは、被災労働者が受けていた賞与(特別給与)の額に基づいて算定される「ボーナス特別支給金」に該当します。
4. 各特別支給金の支給額
(1)休業特別支給金(支給規則第3条)
休業補償給付等の受給者に対し、休業4日目から1日につき給付基礎日額の20%が支給されます。通常の休業(補償)等給付(給付基礎日額の60%)と合わせると、合計で80%の所得補償を受けられることになります。
(2)障害特別支給金(支給規則第4条)
障害補償給付等の受給者に対し、認定された障害等級に応じて以下の一時金が支給されます。
|
障害等級 |
障害特別支給金(一時金) |
備考 |
|
第1級 |
342万円 |
年金対象等級 |
|
第2級 |
320万円 |
年金対象等級 |
|
第3級 |
300万円 |
年金対象等級 |
|
第4級 |
264万円 |
年金対象等級 |
|
第5級 |
225万円 |
年金対象等級 |
|
第6級 |
192万円 |
年金対象等級 |
|
第7級 |
159万円 |
年金対象等級 |
|
第8級 |
65万円 |
一時金対象等級 |
|
第9級 |
50万円 |
一時金対象等級 |
|
第10級 |
39万円 |
一時金対象等級 |
|
第11級 |
29万円 |
一時金対象等級 |
|
第12級 |
20万円 |
一時金対象等級 |
|
第13級 |
14万円 |
一時金対象等級 |
|
第14級 |
8万円 |
一時金対象等級 |
(3)遺族特別支給金(支給規則第5条)
業務災害や通勤災害により労働者が死亡した場合、遺族補償給付等の受給権者に対して一律300万円の一時金が支給されます。受給権者が複数いる場合は、300万円をその人数で除した額がそれぞれに支給されます。
(4)傷病特別支給金(支給規則第5条の2)
療養開始後1年6か月を経過しても治癒せず、傷病等級(第1級から第3級)に該当する場合に、以下の一時金が支給されます。
|
傷病等級 |
傷病特別支給金(一時金) |
|
第1級 |
114万円 |
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第2級 |
107万円 |
|
第3級 |
100万円 |
5. ボーナス特別支給金(算定基礎日額に基づく支給)
上記の各特別支給金に加え、被災労働者が受けていた特別給与(賞与など、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金)を基礎として算定される給付があります。算定の基礎となる「算定基礎日額」は、原則として、負傷又は発病の日以前1年間に受けた特別給与の総額を365で除して得た額です。
(1)障害特別年金(支給規則第6条)/障害特別一時金(支給規則第7条)
障害等級第1級から第7級に該当する場合は障害特別年金が、第8級から第14級に該当する場合は障害特別一時金が、それぞれ以下のとおり支給されます。
|
障害等級 |
障害特別年金(算定基礎日額) |
|
第1級 |
313日分 |
|
第2級 |
277日分 |
|
第3級 |
245日分 |
|
第4級 |
213日分 |
|
第5級 |
184日分 |
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第6級 |
156日分 |
|
第7級 |
131日分 |
|
障害等級 |
障害特別一時金(算定基礎日額) |
|
第8級 |
503日分 |
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第9級 |
391日分 |
|
第10級 |
302日分 |
|
第11級 |
223日分 |
|
第12級 |
156日分 |
|
第13級 |
101日分 |
|
第14級 |
56日分 |
(2)遺族特別年金(支給規則第8条)/遺族特別一時金(支給規則第9条)
遺族特別年金は、遺族の人数に応じて算定基礎日額の153日分から245日分が支給されます。遺族特別一時金は、算定基礎日額の1,000日分(既に支給された遺族特別年金がある場合はその額を控除した額)が支給されます。
(3)傷病特別年金(支給規則第10条)
傷病等級に応じて、算定基礎日額の第1級313日分、第2級277日分、第3級245日分が支給されます。
6. 申請手続
特別支給金の申請は、原則として対応する保険給付の請求と同時に行います。保険給付の請求書に特別支給金の申請欄が設けられていますので、必要事項を記入することで同時に申請が可能です。
ただし、傷病特別支給金と傷病特別年金については、傷病補償年金等が労働基準監督署長の職権で支給決定されるため、別途の申請手続は不要です(支給規則第5条の2第2項、第10条第2項)。
ボーナス特別支給金を申請する場合には、算定基礎日額に関する届出書の提出も必要となります。申請先はいずれも所轄の労働基準監督署長です。
【参照資料】
7. 申請期限(時効)
特別支給金の申請にも時効があります。時効期間は対応する保険給付の消滅時効と同じです。
休業特別支給金は、休業の日ごとにその翌日から2年です。障害特別支給金は、傷病が治癒(症状固定)した日の翌日から5年です。遺族特別支給金は、労働者が死亡した日の翌日から5年です。
保険給付と同時に申請していれば時効の問題は生じませんが、何らかの事情で別途申請する場合には期限にご注意ください。
8. 損害賠償との関係 ── 損益相殺の対象とならないこと
特別支給金に関する実務上の重要なポイントとして、会社に対する損害賠償請求との関係があります。
最高裁平成8年2月23日第二小法廷判決(民集50巻2号249頁)は、特別支給金について、損害賠償額から控除すべきものではないと判断しました。その理由は、特別支給金が「労働福祉事業(現在の社会復帰促進等事業)の一環として被災労働者の福祉の増進を図るために支給されるもの」であり、「被災労働者の損害を填補する性質を有しない」ためです。
これにより、被災労働者が会社に対して安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償を請求する場合、通常の保険給付(休業補償給付や障害補償給付等)は損害額から差し引かれますが、特別支給金は差し引かれません。つまり、特別支給金を受け取った上で、その分の減額を受けることなく損害賠償の全額を請求できます。
この点からも、特別支給金の申請を確実に行うことの重要性がお分かりいただけるかと思います。
9. 複数事業労働者への対応
令和2年9月1日施行の改正労災保険法により、複数の事業場で働く労働者(複数事業労働者)に対応する給付制度が整備されました。これに伴い、特別支給金についても複数事業労働者に対応するものが設けられています。
複数事業労働者の場合、全ての就業先の賃金を合算した額を基礎として給付基礎日額及び算定基礎日額が算定されます。副業やダブルワークをされている方は、この点を踏まえて申請を行うことが大切です。
【参照資料】
弁護士に相談するメリット
労災事故に遭われた場合、保険給付や特別支給金の申請手続に加え、会社に対する損害賠償請求を検討できるケースがあります。特に以下のような場面では、弁護士に相談されることをお勧めします。
適切な後遺障害等級の認定を目指す場合
障害特別支給金の金額は障害等級によって大きく異なります。たとえば第8級(65万円)と第7級(159万円)では約2.4倍の差があります。適切な等級認定を受けるためには、医学的資料の準備や申請書類の記載方法について専門的な知識が必要となる場合があります。弁護士は、適正な等級認定に向けた助言やサポートを提供いたします。
会社に対する損害賠償を検討する場合
労災事故の原因が会社の安全配慮義務違反にある場合、被災労働者は会社に対して損害賠償を請求できます。前述のとおり、特別支給金は損害賠償額から差し引かれませんので、保険給付に加えて特別支給金を受給し、さらに会社への損害賠償請求を行うことで、適正な補償を得ることが可能です。
手続全般のサポートが必要な場合
労災に関する手続は、保険給付の請求、特別支給金の申請、会社との交渉、場合によっては訴訟など多岐にわたります。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、これらの手続を一括してサポートし、被災労働者の方が適切な補償を受けられるよう対応しております。
まとめ
本稿の内容を整理すると、以下のとおりです。
- 特別支給金は、労災保険の保険給付に上乗せして支給される福祉的な給付です。根拠法令は労災保険法第29条第1項及び特別支給金支給規則です。
- 休業特別支給金(給付基礎日額の20%)、障害特別支給金(最大342万円)、遺族特別支給金(一律300万円)、傷病特別支給金のほか、賞与を基礎とするボーナス特別支給金が合計9種類あります。
- 申請は原則として保険給付の請求と同時に行います。申請期限(時効)にもご注意ください。
- 特別支給金は損害賠償請求における損益相殺の対象になりません(最判平成8年2月23日)。会社への損害賠償請求を行う場合にも減額されませんので、確実に申請することが重要です。
労災事故に関するお悩みがございましたら、弁護士法人長瀬総合法律事務所までお気軽にご相談ください。初回のご相談では、特別支給金を含む各種給付の申請状況の確認から、会社に対する損害賠償請求の可能性まで、幅広くアドバイスさせていただきます。
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